「今日を生きよう」

インターネット、携帯、コンビニ。
20世紀末に爆発的に普及したこれら文明の利器により僕らの生活はなんとなく豊かなものとなった。
たいがいのものは手に入るようになってなかなか便利になった。
インターネットなんてその際たるもの。
調べものをしたくなったら、ちょっとばかし工夫をすればなんでも情報が集まってくる。
そしてそれはテクノロジーとしてもそこから生み出されるサービスとしても日々進化し続けている。
単純な検索サイトの時代は終わり、「はてな」や「yahoo 知恵袋」のように
質問を登録するとどこかの誰かが答えを書き込んでくれる、そんな素晴らしい時代になった。


利用してみたくなる。
僕はどうしても、どーーーしても、知りたいことがあった。
今から10年ぐらい前、92年か93年ごろ、日清のイカ焼きそばのCMで使われていた
「♪シャーラーララララリポチュデイ、ヘヘイヘーヘイ、シャーラーララララリポチュデー」
という曲は果たしてなんなのか?
このように10年前の記憶を頼りに聞き書きしてみるとひどく間の抜けたものに感じられるが
あくの強いざらついた低い声、それでいてちょっと頼りない男性ヴォーカルと
そのバックでコーラスがやけっぱちになってサビを決める名曲である。
僕の心のベストテン10位内に永遠にランクインするのは確か。


コマーシャルがまだ流れていた頃、高校の演劇部の部室にて
怖くて結局1度も話すことのなかった「不良」の先輩がラジカセでかけていたテープの中で
誰かが、恐らく日本のバンドが、この曲をカバーしていた。
僕は勇気を出してその先輩になんて曲か聞けばよかったのかもしれない。
あるいは、上京直前の頃。
ジーパンの店でかかっていたので思い切って自分と同じぐらいの年の女性の店員に聞いてみたら
「有線なんでわかんないんです。すいません」と言われた。
最後に耳にしたのはこのときだったかもしれない。


質問を入力する際に補足事項として、コマーシャルはきれいな女の子が
ニコニコと笑顔でカラフルな街を歩きながら買い物しているというもので、
「おいしいものだけ大きくなれる」というキャッチコピーがついていたことを付記しておく。
送信ボタンを押す。
・・・数時間後に答えが返ってきた。マジでびっくり。


テンプターズの「今日を生きよう」ではないでしょうか。ただしバージョンは違うと思います」


テンプターズ?GS?ショーケン?ニッポン?60年代?
そうだったのか!?
でもあれはショーケンの声じゃないよなあ。絶対洋楽でしょう。
これをとっかかりに調べていった挙句出てきたのは The Grass Roots 「Let's Live For Today」
60年代アメリカのポップグループ。
これがそのものずばりかどうかは分からないが、原曲であることには間違いない。


日曜の昼間に質問して、さっそく昨日の夜会社帰りに銀座・新宿のHMVとタワーに寄って探してみた。
自分で言うのもなんだが、こういうことになると異様にフットワークが軽くなる。


銀座では見つからず、新宿南口のHMVへ。
テンプターズの方を見つける。違うんだろうなあと思いつつもなんか気になって買ってみる。
GSって僕聞こうと思って聞いたことないんですね。
いまだに正月のかくし芸大会を真っ先に思い出してしまう堺マチャアキと井上順の、
なんて言ったらバカにされそうなぐらい音楽的再評価著しいスパイダース。
沢田研二というかジュリーのいたタイガース。
ラブ・ジェネレーション」のジャックス。
いつかそのうち聞けばいいと思って避けて通ってきた。
これをきっかけにそろそろフタを開けることになるか。


タワーに行ってようやく The Grass Roots のベストを見つける。
小走りで家に帰ってパッケージひきむしって聞いてみる。
テンプターズは違った。なかにし礼による日本語詞がついていた。
ショーケンが甘ったるい声で
「シャーラーララララおまえがー、シャーラーララララ好きだよー」と歌っていた。
CDを取り出して The Grass Roots に差し替える。
ベストアルバムの1曲目。もしかしたらこの1曲だけで知られてるグループか?
ギターのイントロ、呟くようなふてくされたヴォーカル。
サビに入る前に「ワンツースリーフォオ」とカウントが入る。そして、
「♪シャーラーララララリポチュデー、ヘヘイヘーヘイ、シャーラーララララリポチュデー」
おー。おー!おー!!
これかあ!!!


・・・でもなんか違う。
90年代に誰かがカバーしたのだったのかな。
ヴォーカルはイメージ通りだったんだけど、
バックの演奏がコマーシャルで聞いたものよりもシャラシャラと音が多いような気がした。
うぉー。死ぬまで探し続けてやる。


でももしかしたらもうかなり昔、イカ焼きそばよりももっと前、
なんかの車のコマーシャルで岡村靖幸の「だいすき」が使われたときには
サビの「君がだ・い・す・き」の部分で
ほんとなら子供たちの合唱が加わるのに、コマーシャルではカットされていたことを思い出す。
そういうものなのかもしれない。

あるいは僕の記憶の中で勝手に音の質が変化していたのか。
そうだ、そうに違いない。

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タワーに行ったら、「Think of One」というグループがインストアライブをやっていた。
フジロック帰りとの張り紙がバックのスクリーンに何枚も。
そういえば今年はフジ行けなかったんだよなあということを思い出し、思わず足を止める。
うねるようなサンバのリズム。
ブラジリアン・パーカッションがフロア一帯に響き渡る。
配られたチラシを見てみたら以下のようなことが書かれている。
「ベルギーの暴れん坊雑食アヴァンギャルドブラス!
4人のブラジル・パーカッション隊とのプロジェクト、シュヴァ・エン・ポーで来日!
2004年・英BBCラジオ・ワールドミュージック賞受賞!!」


ホーン隊とコーラス、パーカッション。ギタリストは曲によってはウクレレ披露。
限りなくフリーで気持ちのいい演奏。
前の方ではリズムに揺られて気持ちよさそうにしている。
北欧出身っていうのがミソ。
気持ちいい音楽を求めてたらここにたどり着いて好きなようにやってますという感じ。
思わぬ拾いもの。
フジだったらフィールド・オブ・ヘヴンかな。
僕も音楽をやるのならこんなふうに大所帯でみんなで音を出すっていうのがいいなあ。


9月1日の水曜に渋谷のオン・エア・イーストでライブをやるようだ。
オープニングアクトはなんと渋さ知らズ
これは見たい。土日だったらまず間違いなく行くんだけどな。


CDを買ったらメンバーがサインしてくれるとのことだったので
迷わず買ってサインしてもらう。


メンバーの立っていた背後にはタワーのスローガン
「No Music, No Life」がデカデカと。
ほんと「そうだよなー」と思う。