「気楽に殺ろうよ」

藤子・F・不二雄のSF短編に「気楽に殺ろうよ」というのがあって、
食欲と性欲が逆転された世界が描かれていた。
つまり、性行為は白昼堂々おおっぴらに行われ、
食べることが世間様を前にして慎むべき恥ずかしいことになる。
その理由は、性欲が種族の保存に必要なみんなのためのものであって、
食欲は個体の維持のみに必要でそれを優先するのはエゴだ、というものだったか。
(そこでは「味の素」が「ハジの素」となり、
 乱食パーティーの8ミリがブルーフィルムとなる)


だとしたら睡眠欲が最も恥ずかしいものになる世界があったっていいよねと思う。
電車の中で居眠りなんぞしようものなら、
そしてそれが大口開けてよだれでも垂らそうもんなら、大失態。
恋人に対して「一緒に寝る」ことを要求するのは
比ゆ的な表現じゃなくて、文字通りの意味となる。
親の寝室を覗いてはいけないのはそれこそ、寝てるかもしれないから。


理屈としては
無防備な機能停止状態を晒す以上に恥ずかしいことってあるだろうか? となる。


睡眠薬=媚薬となって、
睡眠時間の長い・短い、眠りの深い・浅いがそれぞれアピールポイントとなる。
そう、夫婦は同じ時間に眠くなって、同じ時間に目が覚めるとよい。
そして共にベッドに入って先に眠りついた方に対して、嫉妬の気持ちを思う。


不眠症なんてことになったらそれは、…


見た夢の話なんてうかつにしちゃいけないんだろうな。
恋人の耳元でそっと囁くのみ。
「昨日、空を飛ぶ夢を見たんだ…」


朝目が覚めたら、そういう世の中であってほしいものだ。
そして僕は部屋の中に引きこもって、ずっと眠り続ける。