熊野古道を歩く その5(2/18:中上健次資料収集室〜那智)


8時起き。風呂を沸かして入る。
テレビをつけると「カーネーション」をやっている。見てみる。
途中からだと何のことやらよく分からず。
昨晩食べ過ぎて朝は何も食べず。お茶を飲んだのみ。


45分過ぎにチェックアウト。ホテルのすぐ裏にある市立図書館へ。
この3階に中上健次資料収集室がある。
http://www.city.shingu.lg.jp/forms/info/info.aspx?info_id=18848


9時開館。お年寄りの方が一人、本を抱えて待っている。
辺りをぶらつく。駄菓子を売っている店がある。ケアハウスが目に付く。
図書館の裏手には移動図書館のバス。宝くじの助成金で、というもの。
車体には馬場のぼる11ぴきのねこ」が描かれている。
窓から中を覗くと児童書を中心にびっしりと本が詰まっている。
本を読む子供が一人でも増えてくれれば、と思う。


9時になって中に入る。東京の図書館と比較するととてもこじんまりとしていて、
かつ品揃えもビデオテープであるとかどこか色褪せている。
杉並区だけで図書館は20箇所近くあって、そのどれもここより大きいのではないか。
そんな比較をついしてしまう。


3階へ。資料収集室。小さな部屋に中上健次の大きなポートレートが目立つ。
書棚に全集や関連書籍など、机の上にカードを整理する箱。
係りの女性の方に中上健次の略歴をまとめた資料と
中上健次の眠る南谷墓地の地図のコピーをもらう。
しかし残念ながら10時半のバスに乗るつもりだったので訪れている余裕がない。
昨日の「かあさん」でもファンの人を墓地に案内したと言ってたな。


自筆の原稿(カラーコピー)、ジャマイカなど海外からの絵葉書(オリジナル)、
「路地」の写真などを見せてもらう。
今にも壊れそうな小さな家の寄り集まった路地の風景は僕が幼い頃、青森にもあったように思う。
そんな話を係りの方とする。どこにでもあった昭和の光景。
新宮だけが、「路地」だけが、特別なのではない。
虐げられた貧しき人々の生活の場はどんな町にもあった。


中上健次が1978年に8mmで撮影した「路地」のビデオと
1992年亡くなる直前に熊野大学に向けたビデオレターがあるというので見せてもらう。
後者は陶淵明漢詩の朗読によって熊野への思いを綴ったもの。
2階の会議室にビデオデッキとモニターがあるというのでそちらに移動する。
10時半から子供たち向けの「おはなし会」
その事前準備として僕が見ている背後で
図書館の若い女性職員の方がカラフルなマットを組み合わせていく。


路地のビデオはなんてことのない日常風景が続く。
雑然とした家並みを前にたくさんのオリュウノオバたちが行き交う。
ブラブラと暮らしてそうな若者たちがバイクにまたがっている。
小さな子供が何かに導かれるようにヨチヨチと歩いている。


ビデオレターは形・影・心による問答。
形は影に、「人間は弱いものだから酒でも飲もうじゃないか」と誘うが、
影はそれを憂さを晴らすだけだからと否定する。
心はそこにいない。熊野の心。永遠に探し続け、問いかけなければならない。
熊野は言葉によっても土地によっても見つからない。その間のどこかにある。


見終えて、ビデオテープを返しにいく。
熊野大学」が毎年夏に開催される、
今年は没後20周年だからいつもよりも盛大に行なわれると聞く。
昨年のチラシを見せてもらった。青山真治の名前があった。
3日間のセミナーで、3日目は熊野川下りとなっていた。
http://ameblo.jp/kumanodaigaku/
http://plaza.rakuten.co.jp/kumanodaigaku/


資料収集室を後にして、駅前のバス停へ。
昨晩飲まなかった缶ビール3本とつまみを抱えている。
駅前の観光案内所で熊野古道の地図とバスの時刻表をもらう。
熊野交通のバスに乗って那智へと向かう。30分に1本ずつ、紀伊勝浦行きがある。
郊外の田舎町を走る。途中、雪が降り出す。
しかしトンネルを抜けてひとつ山を越えると雪がやんでいる。
中上健次紀伊半島のそんな複雑な気候のことを書いていたように思う。


11時頃到着する。那智駅交流センターにてFさんに会う。今日一日同行する。
ここはJR西日本の駅では初めて、駅舎に温泉「丹敷(にしき)の湯」があるという。
http://www.town.nachikatsuura.wakayama.jp/forms/info/info.aspx?info_id=9406


センターで那智大社周辺の地図と紀伊勝浦の「生マグロマップ」というものをもらう。
リュックサックを駅のコインロッカーに預けて、駅の裏の海水浴場へ。
冬ということもあってか、見渡す限り人気がない。穏やかな波が寄せては返す。
夏には家族連れで賑わうのだろうか。
浜には八咫烏の立体像が飾られていた。
先ほどまで雪が降っていたとは思えない、青空が広がる。