熊本旅行 その6

(5/4(日)の続き)


日が暮れてきて、暗くならないうちに火口を見に行く。
山頂まで車に乗っていく。
噴火しているかのように白い煙がモウモウと立ち上っている。
外に出ると寒い。上にシャツを羽織る。
ロープウェーの駅は土産物屋があるからか観光客で盛んに出入りしている。


火口へと坂道を歩いていく。
火山灰が降ってきたときのためのものか、
エスキモーの雪の家のような円形のシェルターがいくつか火口に沿って並んでいる。
これ、本当に噴火したら全員入りきらないだろうな。
火口を覗く。普段はエメラルドグリーンの沼が底に見えているはずが、
今日は激しく白い煙が湧き上がっている。
ぐつぐつと煮えたぎるように蒸気が上下に回転して白く色づきながら上昇していく。
密度の濃そうな、ものすごく存在感のある雲となる。
その周りを様々な段階の焦げ茶色と灰色の地層が折り重なって
荒涼とした景色を形作っている。
火曜サスペンスで犯人に背後から押されていかにも転落しそうな…
それは冗談としてここまでスケールの大きな大自然の姿を日本で見たのはこれが初めて。
人智の立ち入る隙間もない。
ただただ自然の厳しさと何千年何万年の歴史の重みがあるだけ。
言語以前の情報がここまで詰まっている場所を他に見たことがない。
景色の見ごたえということで
順位をつけるならば午前中の阿蘇五岳のパノラマが2番目か。


黄色い硫黄や火山の石を売っている屋台のようなものがいくつか出ている。
モグラやナメクジ 理科の実験」などとある。害虫駆除に使う?
他の火口跡も何億年かかかって地球が作られ、
激動のさなか海と陸地が分離して大地が形作られる瞬間のどこかで
永遠に時間が止まったかのような。
溶岩の流れが細長い支流になって白く固まっている箇所は
2001年宇宙の旅』のサイケデリックなラストシーンのような。
スタンリー・キューブリックのインスピレーションの源と言われたらそのまま信じそう。


車で少し下りて「砂千里ヶ浜」も歩く。
もちろん海辺ではなく、火星の地表のように不毛な灰色の砂と石の広がり。
そこに恐竜の卵のような人間よりも大きな楕円形の真っ黒な岩や
国造り神話にでも出てきそうな巨大なアンコウのアン肝のような岩がゴロゴロゴツゴツと。
砂まみれの緩やかな階段状の道を上っていくと
その先には賽の河原のように石を積み重ねたモニュメントが。
オレンジ色っぽい石、黒っぽい石、鉛色のような石。
それぞれ組成もできた年代も何百万年もしくは何千万年単位で異なるのか。
上ってきたのと反対側を見下ろすとはるか向こうに高森の町並みが見える。
火口からは悠然と白い煙が雲となって吐き出され続け、
その周りにへばりつくように人々が一列になって蠢いていた。


17時半。車に戻って後は帰るだけ。
「草千里」の草原では乗馬体験が行われていた。
「米塚」の側を通り過ぎる。
すぐ近くまで来ると黄緑色の大きな生き物のように見えた。
何万年も前に死骸となったか、
今も生きているが動くスピードが人間の何十万分の一というような。
運転の方には申し訳ないが、帰り道は多くをうとうとして過ごす。
帰りもまた裏道を飛ばし、とこどころ渋滞につかまる。
阿蘇の道の駅でトイレ休憩のはずが駐車場がいっぱい。
そこからさらに西へ行って「はな阿蘇美」という施設へ。
ここでトイレを借りてお土産屋を見て回る。
くまモンのバター飴やバタークッキーに始まり
昔は普通のお菓子だったものが皆、くまモンをパッケージに描いている。
地元の新聞の社説ではくまモンに依存する経済の危険性を訴え、
くまモンからの脱却を呼びかけたのだとか。


この頃にはかなり暗くなる。ミルクロードを西へ。
阿蘇五岳の手前、カルデラの底の集落にも明かりが灯りだす。
2時間ほど走り続けて菊池市へ入る。
熊本で一番うまいと聞いたピザ屋に入る。
ナポリピッツァ研究所 イルフォルノドーロ」という店。
ピザが2枚、「幻の猪ベーコンのビアンカ」と
「菊池マルゲリータ」(マルゲリータが「水牛」「ライト」など3種類あった)
再度オーダーで「自家製チーズのサラダ」と
「猪のコテキーノ」(鉄板で焼いたソーセージ。さやえんどうやトマトを添えて)
チーズも生地も自家製でもちろん釜で焼く。
モチモチとした生地にすっきりコクのあるチーズ。確かにこれはうまかった。
猪も処理がよいのか野性味は残しつつも臭みは全くなかった。


「七城温泉」という地元の大きな温泉に入って帰る。
入浴料は300円でタオルが200円。シャンプーやリンスは洗い場にあり。安い。
かつては七条町の住民ならば200円。町外からだと400円。
それが平成の大合併を繰り返すうちに
どこがどうかよく分からなくなって一律300円になったとのこと。
大浴場に露天風呂にうつ伏せのマッサージ風呂などあれこれ風呂があるのもよい。
ゆっくり浸かる。出てきてテレビを見ていたら宝塚音楽学校に関するものだった。


車に乗って帰る。
繁華街に近付いて日本で最初のスクランブル交差点を通過する。
熊本県警は他に暴走族を撃退する仕組みであるとか、
道路に「軽自動車」の「軽」を描くときに「車偏」を抜いて経費節減するとか
(画数の多い「車」を描くのにお金が掛かる)
工夫する姿勢がすごいとのこと。


運転してくれた方の家に寄っていく。
「熊本は自然が豊かゆえにもてなしの心に乏しい」
(逆に言うと、自然の厳しさが生死を左右するような東北の方がもてなす)
「熊本の人は一番好きなものは他人に教えようとしない」
といった話を聞く。
この日は一昨日・昨日とはまた別の家に泊まることになる。
旅日記を打ち込んで眠ったのは午前2時。
別院に文体編集術レクチャーのコンテンツを展開する。