試作2

ブースター、一段目のエンジン、タンク、二段目のエンジン、タンク。
下からパーツを切り離していきながらどんどん上昇を続けていく。
3分もしないうちに、一般的に「宇宙空間」とされる高度100kmを超えた。
空気抵抗が弱まり、フェアリングという先端のカバーを外す。さらに上昇する。
1時間半ほど経過して、低軌道と呼ばれる範囲の高度350kmのラインに到達した。


積荷が吐き出される。
今回は大型衛星が一つきりという国家的な打ち上げではなく
ブローカーを通して集められた様々な国の雑多なサイズの小型衛星が
隙間という隙間に詰め込まれたものだった。
カレンのキューブサット、超小型衛星もその一つ。
カルポリ、カリフォルニア州立ポリテクニック大学が開発した
「P−POD」と呼ばれる放出機構を今回は利用させてもらった。
宇宙空間で開けるとバネが伸びて衛星を押し出す仕組みになっている。
(カルポリには今回の打ち上げの斡旋もお願いしている)


衛星「ビッグバード」は太陽光発電のためのパネルを広げてさっそくオペレーションを開始した。
カレンの超小型衛星は太陽系外に存在する惑星を探すためのものだった。
しばらく待って周回軌道の夜の側に入ると事前に指定されたターゲットの恒星を探した。
くじら座タウ星e」
生命がいる可能性のある惑星では地球に最も近い距離にあるとされる。
座標を割り出すのはそれほど難しくはない。すぐにも捉えることができた。
その映像を毎秒撮影し、露光するために1分間ストックする。
それを20分続けるとビッグバードは休息モードに入った。
地球を一周するのに約90分。夜の側が終わってビッグバードは眠りから目を覚ました。
身をよじるようにして回転し、太陽に向けて再度ソーラーパネルを広げた。
周回軌道の昼の間、彼はバッテリーを充電し、交信範囲にいる間は地上局とコンタクトを取る。


ビッグバードからのダウンリンク、正常に取得。
 思ったよりもノイズが少ないね。これから解析に入る」
カレンのブラックベリーにリッチーからのショートメッセージが入る。
打ち上げ担当からの成功報告がなされ、
カレンたちのチームは割り当てられた宿泊施設に向かってバスに乗っているところだった。
窓の外には草のまばらに生えただだっぴろい荒地が広がっていた。
空を見上げる。あの向こうを秒速8kmの速さで飛んでいるのか。
インドネシアの赤道付近に設置された基地局にいて
リッチーはいつもアロハシャツに短パンだった。
受け取ったデータはMITに設置されたコントロールセンターに集約される。
そこにもまた大勢の仲間がいる。


「私たちはこの宇宙に独りきりなのか?」
衛星の企画書を書き始めたとき、カレンの頭の中にあったのはこの問いだった。
我々人類についての根源的な質問と言ってもよかった。
長い間、天文学者も哲学者も悩んできた。そこに答えを出したかった。
太陽系の外にある居住可能な惑星を探そう。
地球の直径の1〜3倍の大きさがあって、液体の状態の適温の水分が存在する惑星。
専門的にはスペクトル型のG型(黄色、表面温度K:5,300-6,000K 代表例:太陽)
ないしはK型(橙、表面温度:3,900-5,300K 代表例:アルデバラン、アークツルス)の恒星、
あるいは非変光星を回る惑星をターゲットとする。


地球外生命を発見するにはとても明るい恒星の周りを回る衛星がわかりやすい目印になる。
しかし大気圏内に設置された巨大な望遠鏡で観測するという従来の方法では
極度に集中した光が繊細な観測器を一瞬にして飽和状態にしてしまうため、
明るい星の近くを避けなければならない。
宇宙空間から直接観測した方がいい。
カレンの構想ではそのためのキューブサットを全部で24基配置することになっていた。