行方不明になった双子の妹を探す兄。
同居していたアパートから、ある日突然いなくなった。
犯罪に巻き込まれたのか、自らの意思で失踪したのかはわからない。
もう一年になる。
部屋の中には妹の残した服や本や化粧品の数々がそのまま残されている。
ごく普通の会社員として日々仕事をしながら方々探してきたが、手掛かりは何もない。
兄は諦めつつある。
二人は早いうちに両親を亡くし、遠縁の親せきをたらい回しになって育ってきた。
二人だけで生きてきたと言っていい。
疲れ切った兄は一人きりの部屋に毎晩帰ってくる。
強い酒を飲んで寝る。机の片隅に妹の写真を飾っている。
ちょうど一年目。
社外の打ち合わせがあって昼休みの時間帯に交差点を歩いていると
妹にそっくりな女性とすれ違う。
思わず声をかけるが、女性は戸惑い、避けるようにしてその場を去っていった。
姿かたちは妹そのものなのだが、雰囲気がなんだか違う。
服装も派手になっていた。別人なのか。
記憶喪失ののちに別の人生を送っているのか。
この近くで働いているのか。
その後兄は機会のあるごとにその交差点まで行って妹に似た女性に再会しないか、探した。
社外の打合せをセッティングし、
その案件がうまくいかなくなってからは打ち合わせを詐称、
それもばれてからは会社を休んで何度も交差点を往復した。
有給を使い果たして、無断欠勤するようになった。
一年後、職も貯金もなくなって兄は歩道の脇にうずくまっている。
ふと見ると、妹に似た例の女性が交差点を歩いていた。
夫と思われる男性が隣にいて、ベビーカーを押していた。
幸せそうだった。楽しそうに笑っていた。
男性は兄とは比較にならないほど魅力に満ち溢れた人物だった。
兄は立ち上がり、声をかけることができなかった。
親子が目の前を通り過ぎて、兄は立ち上がった。
ふらふらと交差点を渡る。
信号は赤。
急ぐ車が急ブレーキを踏んだ。