神保町レトロ建築街歩き(後編)

「南洋堂書店」に向かう前に
レトロではないけど神保町のユニークな建築ということで
「神保町花月」を遠くからちょっと見る。
よしもとの若い芸人コンビが裏手で必死になって練習しているのを見かける。
その近くに、最近「二郎」が移ってきて行列ができている。


「南洋堂書店」に入る。
建築系の書籍(新刊・古書)を扱っているだけあって、
コンクリート打ちっぱなし、2階から吹き抜けの店舗がスタイリッシュ。
入口にしつらえられた大きなガラス窓で歩道から明るく照らされた店内が広く見渡せる。
神保町の古本屋のイメージを変える、新しい感覚の空間。
ここで働く女性の方が最新号の「おさんぽ神保町」で本を紹介するページの原稿を書いていた。


この日珍しく(?)3階の古書のフロアが空いていて行ってみる。
建築会社の60年代、70年代の PR誌も置いてあって、
竹中工務店が出していた『approach』という雑誌の72年春号を買った。200円。
梅田の再開発が特集されていて、
あの頃の梅田を上空から俯瞰した白黒の写真や見取り図に70年代テイストが溢れる。
70年代の刑事ドラマの舞台になるような街というか。
見取り図はカラーの地下街のイラストに透かしの紙で上空からのイラストを重ねて見ることができる
という工夫がなされていて、わかりやすい。
でも今はもうかなり変わってしまっているのだろう。特に地下街。
もっと拡大されたのでは。


女性の店員の方からお薦め本の紹介を受ける。
建築関係の専門書だけの店ではなく、最近人気なのはレトロなビルの写真ですねと。
もう一冊、新刊で『いいビルの写真集 west』というのを買う。
大阪を中心とした昭和レトロ、昭和モダンなビルの写真集。
これは「east」もあるのかな。
「OMMビル」「電電公社」「純喫茶アメリカン」など。
レトロフューチャーのまま時間が止まってしまって、
なおかつ生活/仕事の時間は何十年とその中で積み重ねたような不思議な色褪せ方。
美しい歳の取り方をしている。
同じところからシリーズで『いい階段の写真集』というのも出ていて、そちらも気になった。


この時点で15時過ぎ。本来のガイドツアーは15時半まで。
案内人となる「おさんぽ神保町」の編集長の方が15時半から掲載する店舗の取材あり、
かつ梅雨明けの東京はさっそくの猛暑で外を歩き通すのは辛いと
当初予定されていた「東京カトリック教会」は今回割愛することになる。
僕や妻のような本好きがいると本屋に入るたびに時間食ってしまうんですよね…


ゴール地点の「山の上ホテル」へ向かう。
お茶の水小学校の前を通る。夏目漱石の石碑が建っている。
吾輩は猫である 名前はまだ無い」
ここの小学校で学んだ生徒は卒業までに
坊っちゃん」などの代表作のどれか一つを選んで暗唱できるようになると。
そういう授業があるのだろう。
成績表であるとか夏目漱石が残したとされるものがたくさん残っていて、一室に集められている。
小学校が近々建て替えになるとのことで、
その際に神保町の古書店の店主たちに見てもらって価値を判断してもらうという。


今回の街歩きは山の上ホテルで働いている方が参加していて、ここからは解説をバトンタッチ。
建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの紹介など詳細な資料をもらった。
入口にガス灯の灯るチャペルに上がる。平日、ここはビアガーデンになる。
飲み放題もあると聞いたけど、ここで心ゆくまで飲んだり食べたりしたら1万超えるだろうなあ…
池波正太郎も通ったというワインバー「モンカーヴ」は当初会員制で、
探すと池波正太郎先生の名前もあった。


最上階に上がる。赤い絨毯が敷き詰められた有名な螺旋階段を見下ろし、
一番下まで階段を下りて今度は見下ろしてみる。
天井にはステンドグラスがはめられていた。
その後鉄板焼き「ガーデン」、中国料理「新北京」、天ぷら「山の上」、バー「ノンノン」と案内してもらうが、
地下のこことここが裏でつながっていて、一度チャペルに出て、と歩いているうちに
ここが何階なのかわからなくなってくる。迷路のよう。
隣り合わせているはずなのにこちらからは行けない、というような。
いやー、人生一度はここに泊まってみたいですね。
「山の上」は結婚前、妻の誕生日に訪れたことがある。


ガイドツアーが終わって、もう一人参加された方とコーヒーパーラー「ヒルトップ」で休憩。
12時間かける水だしコーヒーで有名で、アイスコーヒーを頼むとすっきりと透き通った味わいだった。
妻はもうひとつこの季節の名物のかき氷を。
綿あめのようにふわふわで、ラグビーボールのように大きい。
中にはアイスが入っていた。これで1,000円は安い方だな…


山の上ホテルを出て駅に戻る。
日も暮れ始めて少し涼しくなっていた。
僕と妻は最後、「ランチョン」に入って生ビールで乾杯。
ニシンのマリネや「ランチョン風ポテト料理」など。
16時過ぎなのに家族連れや友人たちでにぎわっている。
明治の終わりに創業、歴史ある洋食屋・ビアホール。
妻も初めて入ることができて喜んでいた。


神保町で10年近く働いて、いろんなことを知っていたつもりだけど
まだまだ入ったことのない路地はあるもので。
その街の達人に案内してもらっての街歩きはとても勉強になりますね。