The Bevis Frond

その魅力が何とも伝えにくいアーティストというものがあって、
The Bevis Frond がその代表に当たる。
どのアルバムも70分以上あって、演奏は取り立ててうまいわけではない。
なかなかハードルが高い。
初めて聞く人は全部の曲が、全部のアルバムが全く同じに聞こえると思う。
細かく聞くと曲調も使われる楽器の構成も違うのに、
全部同じキー、同じコードに聞こえる。
 
それはなぜかというと、
首謀者 Nick Saloman の日陰者の抒情性、
彼特有の湿ったような乾いたような淡々とした抒情性が
全編どこを切ってもズブズブと沁み込んでいるから。
その印象しか残らない。
だからどんなに聞いても一曲たりともそのイントロを思い出せないし、
サビを鼻唄でうたうこともできない。
ピンと来る人は最初の数秒で鷲掴みにされるし、
分からない人には一生わからない。
(たぶんその方が一般的に幸福な人生なのだと思う)
 
Nick Saloman の一人宅録ユニットで始まって
1980年代からアルバムを発表し、今も活動している。
宅録時代の音は荒んでるとまでは言わないまでも
技術的にも稚拙なものが残っていて、
そこから生まれる独特な寂寥感に覆われていてなかなか辛い。
しかしこれぞアンダーグラウンドなので好きな人はいると思う。
 
1990年代後半以後の、メンバーというか
「仲間」が増えて「バンド」になってからの方が僕としてはお勧めで、
自由に音楽そのものを楽しんでいる雰囲気がそこはかとなく漂っていて、聞きやすい。
彼なりに Pop であるし、Rockである。
Dinasour Jr. や Teenage Fanclub がリスペクトしているというのがうなずける音。
「Son of Walter」(1996)
「North Circular」(1997)
「Vanona Burr」(1999)
「Valedictory Songs」(2000)
「What Did for the Dinosaur」(2002)
「Hit Swuad」(2004)
この辺り。どれか一枚選ぶならば、
アングラな実験と根っこにあるフォークロックとが一番いい具合にブレンドされた「Son of Walter」か
素朴な唄心を感じさせるけどどこを切っても金太郎飴度の最も高い「Vanona Burr」か。
 
気になった人はまず、Youtube なんかで音を探すよりも
アルバムのジャケットを探してみるといいと思う。例えば、
ここにアートを感じるかどうか。