「四人のロバ引き」

iPhone の中でたまたま目に留まって、Charlie Haden 『Liberation Music Orchestra』を聞いた。
Carla Blay が編曲、他、Don Cherry や Gato BarbieriPaul Motian など
当時を代表するアメリカのジャズミュージシャン10人を超える「オーケストラ」で
1969年に録音。若者たちが革命へと向かった時代。
その名前が表すように自由を求め、1930年代後半のスペイン内戦をモチーフとした。
Charlie Haden や Carla Blay らの自作曲以外に、当時歌われた民衆の歌を演奏している。
2曲目のメドレーがそうで、聞いていたら覚えのあるフレーズが出てきた。
「Los Cuatro Generales」という。
 
アメリカのAvan-Folk(前衛フォーク)系のシンガーソングライター Josephine Foster が
2012年に発表した『Anda Jaleo』の1曲目が「Los Cuatro Muleros」
これだ。前者が「四人の将軍」で、後者は「四人のロバ引き」となるようだ。
スペインを代表する詩人、ガルシア・ロルカが集めた民謡集
『Colleccion De Canciones Populares Españolas』から選んでカバーしたもの。
この曲を1曲目に持ってくるというのは単なる偶然ではなくて、
『Liberation Music Orchestra』に対する敬意が Josephine Foster にあったからではないだろうか。
ロルカはスペイン内戦のさなか、1936年に銃殺されている。
Charlie Haden たちもまた、ロルカに対する敬意があったのだろう。
 
素朴な民謡の「四人のロバ引き」だったのが
スペイン内戦の時期にまた歌われるようになったとき、「四人の将軍」となったと思われる。
民衆の敵を揶揄するために歌詞を変えて歌い継がれた。
このとき、21世紀のJosephine Foster は「四人の将軍」ではなく、原曲の「四人のロバ引き」を歌った。
これはロルカの民謡集に忠実に従ったからというのもあるんだろうけど、
スペイン内戦の時期に歌詞を変えて歌われたという表面的なところを取り上げるのではなく、
長らく歌われてきた歌の根っこにあるもの、
民衆の奥底にあるもの、その信じるに値する力を掬い上げたかったからではないか。
 
Josephine Foster の歌う「Los Cuatro Muleros」は一見民謡のようでいて
盟友 Hector Herrero の弾くアコースティックギターによるソロが
ザクザクと切り込むようでなんともロックな魅力に満ちている。
「四人の将軍」として大衆の口ずさむ流行歌となり、その後別の国で息を吹き返し、
『Liberation Music Orchestra』ではジャズ、『Anda Jaleo』ではロックとなる。
ここでは「四人のロバ引き」に代表されるが、民謡というものの底知れぬ力を感じさせられた。