忘れてモーテルズ『いつかの夜の』/河崎秋子『肉弾』

昨日聴いて、読んで、こいつはすげえな! と思ったのを紹介。
 
---
忘れてモーテルズ『いつかの夜の』
 
このバンドについて詳しいことはあんまり知らない。
2年前の秋、大阪心斎橋の「Time Bomb Records」で見かけて
こんなかっこいいジャケットのライヴアルバムってあるだろうか!?
と一目ぼれしたものの、この日他にもいくつかCDを買ってたので見送り。
先日ふとしたことで思い出し、DiskUnion のネットで買った。
1,000円もしない投げ売りだった。
 
小さいライヴハウスにお客さんがびっちりといて、
ギター、ベース、ドラムの3人。
それをステージ後方から撮ったモノクロの写真。
何かで盛り上がった瞬間なのだろう、メンバーもお客さんも腕を振り上げている。
この写真でピンと来たならば買った方がいい。
 
ジャンクでブルースなパンクロック。どっか昭和歌謡の匂いも入った。
そんなバンドいくらでもいる。吐いて捨てるほどいる。
ひと昔ふた昔まえだと GYOGUN REND'S とか King Brothers とか。
正直このバンドにはそれほどのポテンシャルは感じない。
初めて聴いたアルバムの曲もいつかどこかで聞いたようなものばかり。
 
だけど、ロックという音楽は面白いもんで
ロックの神様に愛されたならば
ロックの神様に愛されようと頑張ったならば
ステージの上のわずかな時間の間、キラキラと輝いて燃え尽きることができる。
 
下手でもいい。破れかぶれでもいい。
伝えたいことがあるなら、おっきな声で歌うんだ。
そうだよな、ロックってそういうものだったよなと
聴いてて僕も元気が出てきた。
 
---
河崎秋子『肉弾』
 
先週妻がたまたま図書館から借りてきて、余りの面白さに一日で読んだと。
それを聞いて僕も読んでみた。
会社を休んでいたこともあって僕も昨日一日で読んでしまった。
 
主人公の青年は折り合いの悪い父親と二人暮らし。
やりたいこともなくて大学を休学してだらだらと引きこもり。
それがある日、猟の好きな父親に無理やり連れられて北海道の奥地へ。
最初は鹿狩りだったのがやがて禁じられた熊撃ちへと踏み込む。
突然現れた熊に父親はあっけなくやられ、逃げ出せずにいたところに
野犬の群れが現れ熊に襲い掛かる。
犬たちは首輪をしたものもいて人間たちに捨てられたのだということが分かる。
全てを無くした主人公は山奥をさまよい……
 
妻が調べてくれたいくつかのネット情報によると
作者の方は学生時代に大学の文芸サークルに入るも才能がないと感じて一度諦める。
実家は畜産業を営み、朝から晩まで羊の飼育で忙しく働いた。
30歳を過ぎてまた書こうと思い立ち、夜遅くに少しずつ書き続けたのだという。
 
それまで都会生活にしか縁がなかった普通の若者が山奥で野生の犬や熊と出会う。
その時直面した動物たちの生々しい生態を描き出す言葉のリアルさ。
これは経験に寄るものなのか、取材に寄るものなのか、それとも想像なのか。
事実として正確かどうかが大事なのではなく、
この『肉弾』という物語世界においてそれはリアルなのだと言葉の力で感じさせるということ。
この作者の方は持ってるな、と感じた。
 
後日談が読みたい。
捨てられた犬たちなので幸福な結末は考えにくいんだけど。
それでもいいから読みたい。
この物語世界をもっと深めた中に浸ってみたい。