『ノマドランド』が気になっていて、今日の昼見に行ってきた。
今年のアカデミー賞作品賞最有力作品にして、
フランシス・マクドーマンドの3度目の主演女優賞は固いとされている。
ヴェネツィア国際映画祭でも最高賞の金獅子賞を獲得している。
映画館に見に行くというのがとても久しぶりのように思う。
with コロナの時代となって行くのがためらわれていた。
十分に換気されているだろうし、鑑賞の間会話することもないけど、
見知らぬ人たちと密室で過ごすというのが理由もなく怖かった。
でも実際に、映画館がクラスターになったという話は聞かないわけで。
ようやく映画は大丈夫かと思えるようになってきた。
調べたらとしまえんのユナイテッドシネマでやっていた。
家から一番近くの映画館のはずなのにここは初めて。
としまえんは昨年閉園したけど、今も営業を続けている。
がんばってほしいと思う。
『ノマドランド』は10個ぐらいあるうちの一番小さなシアターで上映されて、
それが半分ぐらい埋まっていただろうか。
工場が閉鎖され、依存していた企業城下町も人がいなくなってしまう。
主人公も職を失い、ヴァンに乗って仕事を求めて移動するノマドの生活を余儀なくされる。
クリスマスシーズンの Amazon の配送センターに始まって
国立公園のキャンプ場の清掃、ファミレスのキッチンなど求人があれば何でも。
他のノマドたちと出会い、別れ、再会を繰り返す。
映画はただその日々を淡々と映し出すだけ。
なのに鋭く、思い。
ヴァンの中で寒さに震えながら眠り、キャンベルのスープを温め、バケツをトイレ代わりとして、
駐車禁止と叩き出されて次の場所を目指す。
かといって最底辺の何もない生活ではなく、
行った先々でワニ園を見に行ったり、カントリーシンガーのステージを見たりと
刹那的な楽しみにも触れている。
何にしても全てが、その場限り。
主人公は多くの場面でひと気のない荒野を、遠くに雄大な山並みが見える中を、
一人きり運転し続ける。
想像を絶するほどに映画的意味合いを帯びた、美しくも冷徹な風景だった。
もしかしたら同じ原作本をベースとしているのか、
以前NHKのドキュメンタリー番組で
クリスマスシーズンの Amazon の配送センターで働く人たちの生活を描いたものを見た。
それが終わってしまうと次の仕事を求めてアメリカ全土を移動し続ける。
もはや企業に採用されることはなく、多くは年配となる。
仕事が見つかる人もいれば見つからない人もいる。
体調を崩して働けなくなる人もいる。
ああ、こういう人たちがアメリカという国を支えているのだなと印象に残っていた。
日本という国もいずれこのようになるかもしれない。
ヴァンやキャンピングカーに寝泊まりして職を求めて転々とする。
僕自身も10年後にはそういう生活を送っているとか。
アメリカという国の今を、
そこで暮らす人間たちの様々な人生というものを描き切っていた。
これは間違いなくアカデミー賞を取ると思う。
見終わって、としまえんを見に行く。
入り口は閉鎖されたまま。
その向こうにアトラクションやその飾りが残されたままになっていた。
としまえんで働いていた人たちは今、どこでどうしているのか。
「香港飯店」で昼を食べた。
天気も良く、歩いて家まで帰ることにした。
パン屋にもいくつか入った。
30分ちょいで光が丘に着く。ちょうどいい散歩になった。
こういうのどかな生活も、いつか日本から失われていくのか。
そんなことを思いながら歩いた。