先週買ったCD #66:2022/01/10-2022/01/16

2022/01/10: BOOKOFF 練馬光が丘店
H2O 「Thicker Than Water」 \290
The Offspring 「Greatest Hits」 \410
 
2022/01/10: TowerRecords 光が丘店
Lindberg 「IV」 \1990
 
2022/01/11: diskunion.net
エレファントカシマシ 「浮世の夢」 \9400
 
2022/01/11: ヤフオク
TOTO 「Live at Montreux 1991」 \1300<
 
2022/01/12: ヤフオク
(Soundtracks) 「ガタカ」 \748
 
2022/01/16: diskunion.net
ピンク・レディー 「RARE TRAX」 \1900
細野晴臣 「Off Shore」 \1500
 
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TOTO 「Live at Montreux 1991」
 
TOTO の評価って今、どうなんだろう?
80年代にバカ売れしたのが90年代に投げ売りされて。
だけど今、3周回ってそのよさがわかる、というバンドの代表格のような。
AOR(Adult Oriented Rock)の括りでよく見かけるけど、そこには違和感がある。
確かに出自としては70年代西海岸の売れっ子スタジオ・ミュージシャンの集まりで
70年代後半の AOR名盤、ボズ・スキャッグス「Silk Degrees」の演奏に
何人か呼ばれたのが結成のきっかけにはなってるけど。
 
ポップで澱みのない、クリーンなロックというところに AOR っぽさを感じるのか。
スティーヴ・ルカサーのギタープレイはブルーズの影響を受けてハードなものになっても、
決してノイズやジャンクに流れない。ヘビメタにも近づかない。
キーボードのデイヴィッド・ペイチ、ドラムのジェフ・ポーカロ、ベースのマイク・ポーカロ
も同様。巧すぎて破綻がない。
そこのところが多くのロックファンにとって魅力のなさにつながるのだろう。
グランジオルタナティヴの対局にある音。
 
全米No.1に輝いた稀代の名曲 ”Africa” や ”I'll Be Over You” といったバラード、
初期だと ”Hold The Line ” のハードロックなど
有名な曲をたくさん残すも
ヴォーカリストが何回も変わっているのが掴みどころのなさを生んでいるようにも思う。
知名度の割にはフロントマンの顔が見えない。
実際にはポーカロ3兄弟の1人、スティーヴ・ポーカロなど
多くのメンバーが出たり入ったりしている。
 
誰もが一度は聞いたことのある ”Africa” の収録された
TOTO IV ~聖なる剣~」の真っ赤に剣のジャケットは
40代・50代の方ならば懐かしいものなんじゃないかな。
洋楽を聞こうとした人ならば一家に一枚というような。
日本でも洋楽チャートの1位、グラミー賞も6部門で受賞。
中学生の頃、クラスの女の子の家にたまたま遊びに行くことがあって、
その机の上に置いてあったのをよく覚えている。
洋楽を聞くようなタイプの子じゃなかったのに。
 
その TOTO ですが、どれだけ演奏が巧いとされていても
全盛期に当たる80年代の演奏を収録したライヴアルバムってのがないんですよね。
90年代後半から活動のペースを落として解散・再結成があったりした後の
21世紀に入ってからは4,5枚は出てるのかな。
もちろん、ブートレグでは80年代のもたくさん出てますが。
演奏に自信のある分、少しでも荒い音があると出す気にならなかったのではないかと思う。
 
ちょっと聞いてみたくなって今回入手したのが、
公式のライヴアルバムでは最も早い時期に当たる、
91年のスイス、モントルーのジャズ・フェスティバルのステージを収めたもの。
モントルー・ジャズ・フェスティバルで録音されたライヴ・アルバムはかなりありますが、
 昨年はニーナ・シモンやマリアンヌ・フェイスフル、マディ・ウォーターズなど出ましたね)
 
メンバーは上述の4人と女性コーラス。
ヴォーカルはこの時期専任の担当が不在で、スティーヴ・ルカサー
決して下手ではないけど、歴代のヴォーカリストのような甘さはなく塩辛い声をしている。
演奏はやっぱほれぼれするぐらい巧いですね。
ギターもハードに弾きまくっている。
 
代表曲3曲 ”Africa” ”Rosanna” ”I'll Be over You” と
後に発売される最新作「Kingdom of Desire」(1992)の表題曲と”Jale to the Bone”
未発表曲集「TOTO XX」(1998)にもこのステージから収録された ”On The Run”
そして、ジミヘンの”Red House” と意外にも 
Sly &The Familiy Stone  ”I Want To Take You Higher” のカバー。
全8曲と少ないようでいて個々の曲が長く、トータル60分を超える。
 
巧いんだけど、グルーヴ感はゼロ。
スライのカバーはブルドーザーのようにごり押し。
こういうところになんとも TOTO らしさを感じた。
 
ドラムのジェフ・ポーカロはこれが最後の演奏だったのだという。
38歳の若さ。Wikipedia を見たら
自宅の庭に撒いた殺虫剤のアレルギーによる心不全とあった。
彼らにとっても特別なライヴアルバムなのだな。
映像作品としても商品化されている。
 
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先月、ボーナスが出た後に
そういえばエピックソニー時代のエレカシって全部持ってなかったなあ、
この機会に中古で買い揃えるかと amazon を見てみたらびっくり。
なぜか3作目の「浮世の夢」ばかりバカ高い。軽く1万円を超えている。
メルカリでは2万越え。
じゃあ他はどうなんだろうか、と
2作目の「エレファントカシマシII」や4作目の「生活」は amazon で1,000円前後から。
なぜか3作目だけが異様に高額な値段がついている。
エピック時代のアルバムが廃盤だからというのもあるだろうけど
このアルバムだけ、というのはおかしい。
 
調べてみるとこの「浮世の夢」の初回盤はブックレットにメンバーの写真が多いのだという。
コレクターズアイテムとしてその価値が上がるのは分かるが、
初回盤以外も同じように上がってしまうのはどうしたもんか。
帯に初回盤と書かれているわけではないからか。
そこに昨今のエレカシ、宮本人気が重なって
さらに誰か有名な人が名盤と煽ったのかな。
 
いやーしまった。学生時代に買っておけばよかった。
僕が大学生の頃、ポニーキャニオンに移籍して
「ココロに花を」や「明日に向かって走れ」でブレイクする前の
エピック時代の諸作は300円とか400円で普通に買えたものだった。
本屋の前のワゴンセールなんかで。
 
こうなるとがぜん欲しくなるもんで。
ちょうどヤフオクに初回盤が800円ぐらいで出てて、お!と入札するも
すぐ3,000円越え。
こりゃ、1万超えるだろうなと放置して後に落札価格を見てみたら、
4,500円。
えー! だったら頑張って入札すればよかった……
 
その後 DiskUnion で見てみたら初回盤と書かれてはいなかったが
帯付きが9,400円だったので、amazon やメルカリよりは安いと買うことにした。
届いたのを見てみたらメンバー4人が
それぞれ部屋の中で写っている写真がブックレットにあって、
どうも初回盤のようだ。安い買い物をした。
……いや、違うか。
 
僕が最初にエレカシを知ったのは80年代末の中学時代で、
当時エピックソニーが『eZ』という音楽番組をやっていた。
バービーボーイズのビデオクリップを見たくてチャンネルを回したら
エレファントカシマシと名乗るバンドが客電つけっぱなしのコンサート会場で
”ファイティングマン” か ”おはようこんにちは” をやっていた。
あんな異様なもの見たことがない。けだものが野に放たれたようだった。
いったいあれはなんだったのか?
その後 Rockin'on JAPAN を読むようになって、
エレカシ宮本のインタビューを読むと奇特な昭和骨董趣味にのけぞるばかりで。
部屋で一人火鉢に当たってるとか。
まさかあんなに売れて、今も続くとは思わなかった。
 
3作目「浮世の夢」を聞いてみる。
恥ずかしながら、2作目・4作目ばかりでこれまで聞いたことがなかった。
江戸の長屋で破れた障子で、素浪人が武士は食わねど高楊枝と粋がりながら
下手な水墨画を書いているような。
宮本浩次が声を限りに始終がなり、石森敏行のギターはかきむしるように走り書き、
高緑成治のベースと冨永義之のドラムは不器用なまでにシンプル。
この時期のエレカシが悪いわけがない。
江戸時代にロックミュージックがあったら絶対こういう音だろう。
 
心動かされるのは、アコースティックギター弾き語りのようにして歌われる後半。
その途中からバンドが加わるか、あるいは弾き語りで押し切るか。
確か3作目のこの頃から宮本浩次はギターの練習を始めたんだったか。
拙いというか、たどたどしい。
普通なら人に聞かせる、商品にするレベルではないと思う。
しかしそれが、あの声と相まってこの時期の宮本浩次にしか出せない演奏になっている。
 
若くしてメジャーデビューは果たしたものの、全然売れない、
世の中に求められていない、というのがわかってきた時期。
初期エレカシ宮本浩次の内面にあるものが苦しそうに吐き出されるようになった。
一言で言うと、厭世的になった。
1作目の ”花男” や2作目のにも ”待つ男” があったが、
3作目のここから”珍奇男” ”浮雲男” と
意識的に世の中からはぐれた男について歌うようになり、
4作目の冒頭はいよいよ ”男は行く” となる。
3作目の”冬の夜”に始まった夜の歌は
4作目”月の夜” ”晩秋の一夜”6作目「奴隷天国」の”寒き夜”へ。
(メンバーとスタッフ、一部のファン以外に)理解されず、
一人きり、ぽつねんと過ごす夜。
それを覚えたてのアコースティックギターで、辛い気持ちのままに歌う。
 
4作目「生活」の頃にはメンバーの演奏が血肉化され、一枚岩となって、
決死の覚悟で歌を削りだしていく。
3作目の「浮世の夢」ではまだそれがどこか恐る恐るで
メンバーとの距離を測りかねている。
最後の ”冬の夜” の弾き語りに込められた孤独はなんともやるせない気持ちにさせる。
 
それが今や、箱根駅伝サッポロビールのCM
『大人エレベーター』に今年出るんだからなあ……
時代がエレカシ宮本浩次に追いついたのか、
彼の方から僕らに歩み寄ったのか。