怪談

夜はいつも2階のリビングで過ごしている。
暖かいし、テレビがある。
キッチンも2階にあって缶チューハイや缶ビールを冷蔵から取り出すのも近い。
妻も猫も、僕も、こたつに入ってテレビを見ていた。
そのうちに妻は横になって寝始めた。
 
昼間読んでいた本を下の部屋に置いたままだったことを思い出し、
CMになるのを待って階段を下りていった。
トイレの明かりが付いていることに気づく。
下の隙間から光が漏れている。
こっちのトイレ使ったっけ? 日が暮れてからはないな。
妻がさっき入ったのだろうか。
 
ま、消し忘れだろうと壁のスイッチを押した。
そのとき、
 
えっ
 
という声がした。男の声。
特徴は思い出せない。甲高いとか低いとか。
でも、男の声だと思った。
 
この家の中には僕以外に他に男性はいない。
そもそも妻と僕と猫しかいない。
 
誰かいる?
 
怖いと思う先にドアを開けていた。
真っ暗なトイレ。もちろん誰もいなかった。
電気をつける。やはり誰もいない。
 
というか、さっきの声はトイレの中じゃなかったように思う。
じゃあどこかというと、……僕の背後から。
 
そこで初めて怖くなってきた。
……恐る恐る振り返る。
 
誰もいなかった。
廊下があるだけ。
 
廊下の明かりはつけてなくて、暗い。
その先に何か見えたら……
 
急いで階段を上って2階に上がった。
寝ている妻をまたいでこたつに入った。
 
ああ、下のトイレ、電気付けっぱなしだった。
でも消しに行く気にはなれなかった。