CDの値付けという仕事

この日は非常勤のバイトで、中古CDの値付け。
 
妻のバイトしている神保町の古本屋に以前行ったとき、店長の方と挨拶。
妻が「夫は音楽に詳しくて、CDを3万枚以上持っていて」と紹介すると
「ほう!」となって、「いつか、そのお力をお貸し願えれば」と。
社交辞令だろうと思って「あー、いつでもいいですよー」と応えたら本当にその日が来た。
 
軽トラで何回も往復するほど大口の買取の話があって、メインは本だったんだけど、
ついでに何百枚もあるCDも引き取ってほしいという。
(妻は本の引き受けに何度か同行していた)
それらCDの山のジャンルごとの振り分けと値付けを僕が担当することになった。
 
日にちが決まり、妻が写真を送ってきた。
紐で縛ったCDの束が20ぐらいあっただろうか。
どうもソウルが、コテコテの王道ソウルが多そう。
ファンク、ブルース、ディスコも含めてのソウル。
あとはロックと、ワールド系、J-POPか。アイドルものもチラホラと。
一方でクラシック、メタル、パンクは見た限り皆無。
状態としては一般的な家庭の保存状態と思われる。
つまり、それなりに経年劣化がある。
 
スムーズに値付けが進むよう、気になるCDはピックアップで
amazon や DiskUnion の相場観を確認する。
繰り返すうちに全体像がより見えてくる。
どうもこの方のコレクションのピークは90年代後半のようだ。
旧規格のCDが多く、紙ジャケがほぼ見当たらない。
短冊形のCDシングルも何本か混ざっている。
70年代の日本やアメリカのフォーク・シンガーソングライターや
ブラジル、キューバものにいいものがありそう。
その辺りは最近の再発を購入してそうだ。
 
下調べもできる限り行って、その日を迎える。
妻もこの日はバイトということもあって9時過ぎに一緒に家を出る。
地下鉄の中でもソウルのCDの相場観を調べ続ける。
 
10時過ぎに神保町に到着。
開店準備のための入店は10時半。
時間が空いてスタバに入る。紙のストローはやはり嫌だな、と思う。
20分ごろ、店に入って挨拶する。
妻は床のモップ掛けなど初めて、その間僕は棚を眺める。
他のバイトの方たちも入ってくる。
外のドアを手動で開けておくと、開店前にもかかわらずお客さんが入ってくる。
それをお断りしないんですね。
引継事項、連絡事項の共有のための朝礼を行っているところを平気で歩いている。
 
11時の開店を迎えて、僕は店長の方と共に本店の方へ。
本店に運ぶ本を箱に詰めたワゴンを一緒に運んで軽トラに乗る。
靖国通りに出てすぐ。
本店3階が倉庫になっていて、その壁一面が本棚。
その一角にビニール紐で結わえられたCDの束が無造作に押し込まれたり積まれたりしている。
 
これを紐を外して1枚ずつロック、ジャズ、ソウルなどとジャンルごと、
しきりに付箋を貼って、110円、330円、550円などとざっくりした値段ごとに並べていく。
もちろんケースを開けてCDの状態を確認する。
物によっては埃や傷が付いていたりする。
ブックレットも汚れているものがある
状態がよければもっといい値段が付けられるのになあ、という残念なものが結構ある。
帯のあるものはきちんとアピールした方がよかろうと、
DiskUnionでCDを買うたびにおまけでついてくる保護のビニールカバーを
この日のために取っといていたのを持ってきて利用する。
そんなこんなでけっこう時間がかかる。
最初の一時間は試行錯誤しながら手順を確立して慣れるためにほとんど進まなかった。
 
iPhone のスピーカーを持ってきて、音楽を聞きながら作業する。
店長の方は3時に様子を見に来るというので、それまでにかなり進めておきたい。
ノンストップで黙々と続ける。
途中、本店のバイトの方が休憩のため、あるいは他の作業のために3階の倉庫に上がってきて
あ、どうも、お疲れ様ですと一言二言交わす。
 
仕分け、値付けと進めるうちにどうしても欲しいCDが出てくる。
妻の送ってきた写真を見る限りでは特に食指が動かなかったのが、
現物を前にして1枚1枚触れていると、
あ、これ、いいんじゃないかというのが何枚も出てきて。
特にソウル関連は僕もそんなに知らないということもあって勉強になるし、聞いてみたくもなる。
そういうCDにイチイチ印をつける余裕もなく、並べたのをちょいと前に出すことにする。
 
何百枚も見ているとその人の傾向が如実に見えてくる。
ソウルと言っても、よく知られた名盤よりもディープな方なんだなあとか。
ロックはこの人が好きなんだなあ、ブートレグ海賊盤が何枚も出てくる、とか。
ソウルは僕の全く知らなかったコンピレーションのシリーズがいくつかあって、
ああ、この方はこれを手すりに深めていったのかもなあ、なんてことを思う。
 
値付けは悩む暇も調べる暇もなく、
この30年間のリスナー人生の間に培った、頭の中の相場観を頼りにひたすら進める。
CDの状態がよくないものは価格も上げられず、国内盤だと帯のないものもそう。
詳しくないものはジャケ買いに自信があるという前提でジャケットの印象で決める。
あとはレーベルが参考になる。
国内だと P-VINE とか。海外だと Stax とか、Rhino の再発とか。
 
うわー、全然進んでない。やばいと思いながらやっていたらいつのまにか13時半。
休憩に来ていたバイトの方が下に戻るというのに合わせて僕も昼を食べに外に出た。
何も考えず交差点の信号が青になる方向に歩いていたら
九段下の大勝軒の近くと気づいて中に入った。
カツカレーに揚げ焼売を添えたスペシャルカレーにした。
 
食べ終えて、コンビニでロックアイスとサイダーを買ってすぐ店に戻る。
作業を再開。3時前に店長の方が来て状況を確認。
この日のバイト代ももらった。
11時から17時まで6時間ということで、ありがたいことに当初思っていたよりも多かった。
17時まででこの日は終わりとなったが、作業がひと段落するまでやっていくことにする。
気が付くと、4時、5時とどんどん時間が過ぎていく。
立ったままひたすらCDの仕分け、値付け。
 
6時前にようやく終わった。
途中、どのジャンルかわからないものは脇に置いといて
最後にそれらをまとめて検索して裁いていく。
暫定的に棚に並べて溢れたのを並べ直す。
そういうのもひっくるめて、終わった。
 
最後の締めは妻に来てもらう。
欲しいCDを急ぎピックアップしたら15枚。
330円が2枚、550円が9枚、770円が2枚、1,100円が2枚。
妻から店長に電話してもらい、その場で購入いいですよ、
全部で9,000円でいいですよとなる。
レアなCDを直売。しかも値付けを下僕の言い値。
こんな役得あっていいのか。こんな天国があっていいのか。
 
会計をして、DiskUnion に取り寄せのCDも買いに行って。
妻のバイトが終わってランチョンでベイクドポテトや塩タンをつまみに
生ビールやハイボールを飲んだ。
 
帰りの新宿線大江戸線で選んだCDの amazon や DiskUnion での評価を調べる。
どれも名盤クラスのようだ。よし。
家に帰ってきて早速2枚聞いてみる。どちらも確かに素晴らしい内容だった。
自分の能力、経験の確かさを感じることができて、こんな嬉しいことはない。
仕事したなあ、と思った。
平日の仕事よりも、充実感・満足感があった。
また声がかからないかなあと願う。