青森帰省3日目(「津軽」を訪ねて)③竜飛岬 青函トンネル記念館

海沿いの漁村を通り抜けると
岬へと向かう分かれ道になっていて小高い丘の上の方へと坂道が続く。
まず見えてくるのは風力発電用の白い風車。ほっそりとした形をしている。
強い風に吹かれて3枚の細い羽根がクルクルと回っている。
竜飛ウインドパークとその展示館。
その隣にあるのが青函トンネル記念館。この2つの建物はつながっている。


トンネル記念館の方に入る。
ここの目玉は「記念館駅」から海底トンネルにある「体験坑道駅」へと下りていけること。
(確か、青函トンネルの中にある「竜飛海底駅」とは違うはず)
ケーブルカーで底まで行って、ガイドがトンネルの中を案内して、戻ってくるという45分間のコース。
この切符が記念館の入場券込みで900円。
今インターネットで調べてみたらこのケーブルカーはJRではなく私鉄であって、
しかも日本一短い私鉄なのだとのこと。


出発の時間まで時間があったので記念館の展示を見る。
いかにして青函トンネルが開通したか、その歴史を解説するもの。
どちらかというと子供向き。○○科学館って感じの。
それにしても青森に住んでいた僕にしてみれば
青函トンネルの工事って子供心に世紀の大事業のように思えたものだ。
貫通の日なんて青森県全体が興奮に沸き返ったような気がする。
懐かしいなあ。貫通に至るまでの長い間、
工事絡みのニュース・話題が毎日のように何かしら紹介されていたように思う。


ウインドパークの展示館へ。
東北電力が管理・運営しているせいか、口当たりよい展示施設となっている。
つまり、可もなく不可もなく当たり障りのない内容。こちらもまた子供向き。
風力発電の仕組み、そもそもの風の仕組み、
などなどがパネルや簡単な実験機器を通して手軽に学習できるようになっている。
風速15mを体験というコーナーがあって、訪れた人は誰もが皆ブースに入っていた。
六ヶ所村の原子燃料サイクル施設のアピールもそれとなくさりげなく入っている。
大間や東通村原子力発電所のことも。
(正直今の僕には原発関係の施設の建設がいいんだか悪いんだかよくわからなくなってきた。
 長いことかかって丸め込まれたのだろうか?
 少なくとも六ヶ所村の原燃施設の職員の待遇はものすごくいいらしくて、
 仕事が尋常じゃなく忙しくなってきてわけがわかんなくなってくると
 僕は六ヶ所村の施設に雇ってもらうことを夢想する)


風力発電の施設は日本各地にあるようだけど印象としてはどこもまだ試験導入段階のようで、
設置されている風車は1〜3基とかそれぐらいのもの。
それに対して竜飛岬のウインドパークは11基と日本一の設置数になっている。
竜飛岬の年間の平均風速は10mを超えるという。
いつだってピューピューと風が吹き荒れている。


時間が来たのでケーブルカーに乗り込む。
オレンジ色の車体はもともとの造りが斜めになっている。
駅の床に置かれた予備の車両を見たらきれいな平行四辺形だった。
これから下っていく坑道が斜めに掘られているため、それに合わせた形になっている。
駅と坑道の間は「風門」で遮られ、
発射の合図とともに分厚い鉄の扉がゆっくりゆっくりと持ち上げられていった。
錆付いた金属同士が擦れあったり、ウインチで巻き上がられたりする大きな音とともに
ピリャーン、、、、ピリャーン、、、、とソナーのような音が聞こえてくる。
風門が完全に上がるとケーブルカーがのっそりのっそりと下り始めた。
テープによるアナウンスがにぎやかな音楽とともに社内に響き渡る。
これから行く体験坑道の仕組みやその歴史について。
なのにスピーカーの調子が悪いのか音がものすごく割れている。
ガイドの女性も運転手もそれが当たり前になっていて何も気になってないかのようだった。


9分間かけて斜坑を下っていく。到着地点の深さは140mとなる。
斜坑は普段は換気や排水や保守作業用の資材運搬に使われる。
普段乗ることのない乗り物に乗っていて、普段接する機会のない場所に向かうのであるから、
30過ぎたいい大人なのにどうにもわくわくしてしまう。
単調な景色の繰り返しであっても気にならない。
灰色のくすんだコンクリートの壁と太い鋼管がどこまでも連なる。
海水が染み出てくるのだろうか、その壁や鋼管にところどころ塩が付着していた。


海底に到着。入れ替わりで1コ前の回でガイドを受けた人たちが上っていく。
トンネルの中は自由に見学可能ではなくて、ガイドの女性に付き従うことになる。
体験坑道の中にはその当時実際に使用された工具や機械類が並べられ、
トンネルを掘るに当たって用いられた工法の説明がなされる。
「注入」「コンクリート吹き付け」ともう1つ、
今では思い出せないが青函トンネル掘削に当たって生み出された3つの重要な技法が採用された。


20年以上もの長期に渡り、延べ1,370万人が工事に従事し、そのうち34名が工事中に死亡。
そんなふうに聞くと、置いてある工事用の車両やハンマーや削岩機といったものの1つ1つに
様々な人々の怨念とまでは言わないものの何か薄暗いものがべっとりと染み付いている。
トンネルの中そのものがどうしても薄気味悪く、
ここに1人で下りてきて歩いていたら「何か」を見てしまいそうだ。
今でも作業し続ける人々であるとか・・・。


時間が来て上りのケーブルカーに乗る。
ガイドの女性は次の回の人たちへの案内のため、引き続きトンネルの中へ。
1日に何度も何度も観光客を迎えてその都度同じ事を話し続けるのか。
海の底のトンネルというロケーションもあって
単調という以上に陰鬱な仕事のように感じられる。
割ときれいな人だったなあ。
もう何年も何年もこのガイドをやってきて、これからも何年もガイドを続けるのだろうか。
本州の最果て、この津軽半島のさらにその最果ての岬のトンネルの底で。
いたたまれない気持ちになる。
そういう人生もあるんだなあと思う。


僕は最前列に陣取ってソロソロと上っていくケーブルカーからの光景を食い入るように眺める。
なんだか僕は深い井戸の底にいて、ものすごく高いところに光が見える。そんな感じだった。
そしてその光がゆっくりゆっくりと近付いてくる。


地上に戻ってお土産のコーナーで会社の人にお菓子を買って外に出る。
「はろうきてぃ 青森限定 さくらせんべい」と
「みちのく限定 カール カキミソ味」
カキミソ味なんてよく作るよなぁ・・・。