「ハチミツ」(準備稿⑤)

[キーボードを打つ手のショットに、PCのスクリーンに映し出される文字をオーバーラップ]
「見終わると僕はビデオテープを取り出した」


(D)がビデオカメラから録画用のテープを取り出してケースにしまう。
机の上に置く。


部屋の反対側には(E)が座っている。
(E)「どうするの?」
(D)「どうしようか?」
(E)「(C)は結局?」
(D)「行方不明のまま。このテープだけ送られてきて」
(E)「どこから?」
(D)「わかんなかった。アラビア語っぽいので細かいのがびっしりと。しかもかすれてる。
    日付は半年以上前。
    ・・・それにしてもなんで俺なんだろうな?」
(E)「仲良かったんでしょ?」
(D)「でも、両親や兄弟だっていたし、当時は恋人もいた」
(E)「今から失踪しますって人が恋人にこういうの送るかな?」
(D)「(E)がこういうのもらったら嬉しい?」
(E)「どれぐらいの恋人かによるよね。私だったら、・・・嬉しくない」


[PCのスクリーンに映し出される文字]
「その夜、僕はもう1度ビデオを見てみた」


[PCのスクリーンに映し出される文字に、ビデオの映像をオーバーラップ]
「モロッコの映像が突然途切れると、テープの残りには彼の故郷青森の映像が映っていた」


冬の青森の映像。[視線ショット]
吹雪の中を1人とぼとぼと歩く。やがて海に出る。
黒ずんだ空から雪が降り続け、凍りついたような海に消えていく。


(D)は明かりのついていない真っ暗な部屋で1人、映像を見つめる。


映像が終わり、部屋の中が完全に真っ暗になる。


翌朝(D)は目を覚まし、スーツに着替える。


(D)は部屋の外に出て行く。1日の始まり。


通勤途中。(D)は電車の中で立っている。
(D)と(E)の音声がかぶさる。


(D)「届けに行こうかと思うんだよね」
(E)「どこに?」
(D)「(C)の家族のところに」
(E)「青森?」
(D)「いや、お兄さんはこっち来てる」
(E)「郵送じゃなくて?」
(D)「うん、こういうのって直接会って手で渡した方がいいように思う」


[走る電車のショット]