「リトル・ミス・サンシャイン」「マリー・アントワネット」

土曜に見に行った映画2本について。


まずは渋谷のシネクイントで「リトル・ミス・サンシャイン
家族の再生をテーマとした一見地味な作品ながらも、全米で口コミで評価が高まり、
昨年の夏の興行収入成績トップへと躍進、今年のアカデミー賞作品候補にまで上り詰めた。
無名に近い脚本家と監督が成し遂げたアメリカン・ドリーム。
(「40歳の童貞男」がヒットしたばかりの
 スティーヴ・カレルが出てるってのもポイント高かった模様)


売れない成功論を振りかざす父親を筆頭に負け犬一家が
娘の美少女コンテスト「リトル・ミス・サンシャイン」出場を機に
おんぼろの黄色いバスに乗ってカリフォルニアまで旅に出る、
プチ・ロードムーヴィーにしてホームドラマ


この娘がまたミス○○に憧れてのぼせ上がってるだけでしかない小太りのメガネっ子で、
「おいおい、そりゃねえだろう」と暗雲立ち込める結末を予想させるんだけど、
結果正にそうで。都合よく奇跡など起こりやしない。それがまたいい。


前半は薄味な感じで、「まあ新人監督だからなあ」と思わせるんだけど、
後半からぐぐっとまとまりだしてクライマックスの美少女コンテストまで一気になだれ込む。
出場してる他の子たちは5歳・6歳とは思えないぐらい完成されたミス○○のミニチュアばかり。
そこに一緒になって並ぶ、1人だけポーズの取り方すら知らない
小太りメガネっ子の姿が痛々しくてたまらない。
やがて順番が来ておじいちゃんに振付けてもらったという「ダンス」の披露となり、
これがまた思わず目を覆いたくなるような大醜態。
「ごめん。もう見てられない。頼む。許して」と僕は心の中で祈るような気持ちになる。
だけどそれがちょっとしたことをきっかけに、感動の名場面となってしまう。
壊れかけた家族が立ち直って、1つになる。
僕は唖然とした。鮮やかなまでに突き抜ける瞬間ってのがあった。
確かにこれは口コミで話題となって、アカデミー賞の候補になるだけのものがある。
映画を見る感動ってのがここにはっきりと現われてるんだもんな。


でもこれが作品賞を取れるかって言うとそれはちょっときついだろうなー。
ほどよい佳作ってとこか。


このダンスのシーンの素晴らしさはしばらくの間、ことあるごとに思い出すと思う。


なお、エンドクレジットに流れる曲などいくつかで、Sufjan Stevens が使われている。
どっかで聞き覚えのある声と歌、楽器のなり方だなあと気になってクレジットを見ていたら
名前が出てきた。
あんまり知られないままになってしまうのかな。もったいない。

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銀座に移動して、「マリー・アントワネット」を日劇PLEXの11階で。
16時の回がほぼ満席。あの広い客席が埋め尽くされていた。
しかも女性ばかり。
全てを多い尽くすケーキとドレスと靴とシャンパンの洪水。
花束とアンティークな家具と髪飾り。瀟洒でかわいいものだけで成り立っている王国。
女の子の夢がここまで豪華絢爛に、ここまで何の臆面も無く描かれた作品ってなかっただろうな。
少女漫画の実写化。一言で言うとそういうことになる。


賛否両論あるだろうけど、僕はこれ面白かった。
否定的な人は「とりとめがなくて、ストーリーがない」ってのが不満なんだろうけど、
ソフィア・コッポラにそれを求めてもしょうがない。
ロスト・イン・トランスレーション」だってそうだったじゃないですか。
2時間なら2時間と言う時間を使って、なんらかの感覚・感触を伝えること。
彼女の望むことは恐らくただそれだけであって、
マリー・アントワネットの史実そのものではない。


ソフィア・コッポラ独特の
そのシーンで起こる出来事とその映像を通じて
人として誰もが感じる曖昧な感情をサラリと描く手法は今回さらに研ぎ澄まされたように思う。
あれだけのケーキとドレスと取り巻きたちに囲まれながらも
マリー・アントワネットが抱いた孤独感や無力感ってのがそこここで瑞々しく描かれている。
ちゃんとそういうのを切り取れるからこそ、映画が映画として成り立っているのではないか。
だから、これでもかこれでもかと
女の子的ガジェットで全てが埋め尽くされていても息苦しくならない。
そのときマリー・アントワネットが食べたケーキのキュートな甘さを伝えたいのではない。
ソフィア・コッポラが伝えたかったのはその儚さだ。


儚さ。
それは映画という表現媒体が誕生以来描き続けてきた普遍的なテーマの1つであって、
ソフィア・コッポラは臆することなく今回もまたそこに挑んでみた。
そういう意思がはっきりと感じ取れたので、僕としてはこの作品を高く評価したいと思う。


あと、音楽。
クエンティン・タランティーノか、ソフィア・コッポラか」ぐらいに
縦横無尽に自分の好きな音楽を使いまくって結果オーライにしてしまう類稀な才能。
いやー。僕としては冒頭でいきなり Gang of Four 「Natural's Not in It」の
この世の気に入らないもの全てを切り裂くギターのリフが聞こえ出した時点で
「やられた!」と思った。ゾクゾクした。
ヴェルサイユ宮殿の享楽の日々に New Order「Ceremony」が背景として流れて、胸が高鳴った。
マイブラKevin Shields がリミックスした Bow Wow Wow のジャングル・ビート。
UK New Wave だけじゃなくて、おなじみ AirAphex Twinアンビエントサウンド
普通に当時のバロック音楽も使われていて。
ケーキに興味のない僕なんかにしてみれば
このサントラの方がよっぽど豪華だなあ、すごいなあと唸らされるもんであって。


ことあるごとに僕は言ってるけど、Gang of Four が大好きで、
映画館という場所でこれまでで最も大きな音で聞くことができた。
そのことだけでもソフィア・コッポラに感謝である。