熊野古道を歩く その14(2/21:本宮大社〜川湯温泉)


バス停で待ち合わせて、後輩親子に会う。
さっそく昼を食べる。バス停の向かいに蕎麦屋が開いている。
僕は梅若うどんにする。梅、ワカメ、大葉。意外とうまかった。
天カスをたくさん入れる。


本宮大社へお参りに行く。下から見るとかなりの石段。
登りきって本殿へ。僕は一度お参りしているので後ろに下がって待つ。
社務所にて八咫スタンプを押して八咫ポストに投函する。
(なお、今回の場合21日に投函して消印が23日で届いたのが25日。
 急ぐ人は普通に出したほうがいいでしょう。
 郵便局にすんなり渡されるようではないみたいですね)


紫の袴に上は白、頭には衣冠単、ポックリの靴を履いた神職が厳かに現れて消えていく。
するとどこからか太鼓の音が。何かしらの儀式が始まったようだ。


後輩親子がお守りを買って、本宮大社を後にする。
14時になるかならないか。帰りのバスは15時。
どうやって時間をつぶすかという話になって、
せっかくだから温泉に入ったらいいんじゃないかと僕は提案する。
宿に電話して日帰り入浴を行なっているかどうか聞いてみると
本来やっていないが、特別にオーケーということになる。
マイクロバスの運転手にもそのように伝えてもらう。


宿に戻る。仙人風呂を見ると、内湯に日帰り入浴ではなくそちらに入りたいとなる。
宿で女性用の水着を借りる。子供用はないとのこと。僕は入らない。
どこで着替えるかということになって、僕は僕の部屋でいいんじゃないかと。そうする。
着替えて外に出ようとすると女将からチクッと言われる。
「どのようなご関係ですか? ご家族やご親族の方ならばよろしいのですが」
そう問われて僕は「大学の友人ですが」と答える。
「冨士屋といたしましてはそのような場合にお部屋にお通しするのをよしとしかねます。
 先ほど、公共の脱衣所があることを申しそびれました」
毅然とした態度を取られる。それは単に厄介ごとを拒絶するのではなく、
宿に泊まる多くの方に快適さと安らぎのある空間を提供する立場として
一線を引かなくてはならないこともあるのだという意思表示としての
人工的な不快感の表れであった。演じるということ。
たいしたもんだな、と思った。
この冨士屋、高いけどどうなんだろう? と思っていたところにこの一件、
むしろ僕は冨士屋側に傾いた。


まあ不倫と思われてもしょうがないよな。
後輩親子が仙人風呂に入っているあいだに、後輩たちの着替えを部屋から運ぶ。
帰りは公共の脱衣所を利用した方がいいだろうと。
(結局はそこまで行くのが寒いとその場で着替えたけど)


バスの時間は15時を過ぎてすぐ。
その間、バツが悪くて外で待っていたら女将が来て
せっかくだからロビーで待っていてくださいと。そうする。
後輩たちがバスに乗って帰る。
僕が宿の中に入ると「お帰りなさいませ」とそこから先は
何事もなかったかのように振舞われる。
もてなしとはなるほど、そういうことでもあるのか、と考えさせられた。
引きずらない。その時々でフラットな立場に立って振舞う。
逆に普段とは異なるものがそこに持ち込まれた場合には、フラットになるようにする。
その宿の格式に基づいた一定のルールに従って。


その後はずっと温泉と酒と。
アメリカ ミステリ 傑作選 2003』の続きを読む。
ひとつ読み終えると温泉に入りにゆく。上がってくるとまた次のを読む。
酒を飲みながら。これを夜が更けるまでえんえん繰り返す。
今の自分の手の届く範囲でこれが最高級の贅沢なのだなと思った。
裏を返すと、今の自分の人生レベルとでも呼ぶべきものとその方向性はここなのだな、
ということを感じた。


食事:食前酒、造り(伊勢海老・マグロ)、サンマの寿司、鯉チップス、
イカと明太子の和え物、鯛のマリネ、ブリの照り焼き(付け合せにさつま芋の甘煮など)、
陶板焼き(ボタン肉・茄子・椎茸・ブロッコリーからしマヨネーズ、もみじおろしなど)
鯛のあら炊き、鯛飯、漬け物、吸い物、
フルーツ(リンゴ、イチゴ)、シフォンケーキ
ビールは3本。
湯上り後の冷酒は昨晩の「熊野川」ではなく「黒牛」にしてみる。
つまみに昼に買った「ぬれいか天」

夜、最後の温泉。辺り一面に広がった工事灯が赤く瞬いている。
酔いが回った頃、午前0時に眠る。