オノクラ汁講その7

(2/17(日)昼)


10:30 線路を渡って山側へ。石畳の急な坂道が始まる。
皆、フーフー言いながら上っていく。
ここの人たちはこれを朝昼晩と上り下りしているのか。
3人も横に並んだらいっぱいの狭い灰色の小道が
古びた家々の間を毛細血管のように張り巡らされている。
曲がりくねって、折れ曲がって。軒先のすれすれを。
あちこちに墓場がある。固まって広がっていることもあれば
小さな階段を上った先にひとつやふたつがポツンとあったり。
昨晩「yes。」で聞いた話では「墓バー」というイベントがあって
食べ物や飲み物を持ち寄って夜を楽しむことがあるようだ。
古寺巡りは持光寺、光明寺、宝土寺と続く。
最初の持光寺の「臥龍の松」は樹齢650年。
龍が飛ぶように幹を横に伸ばしていたが、
残念ながら20年ほど前に枯れてしまったとのこと。
今はその一部が残るのみ。


坂道を歩いていると「文学のこみち」と交差して
今回は入らなかったけど志賀直哉旧居など。
気が付くと尾道のあちこちで名だたる文学者・表現者の手形ならぬ足形が。
いったいいつどういうタイミングで取るものなんだろう?
公演・講演などで有名人が訪れると事前に分かっている場合に用意するのか。
珍しいところでは松崎しげる岸田今日子
ジャズ・ミュージシャンの坂田明など。


魔女の家のようなハーブ園? があって
「ほうきの修理中によりお休みします」とドアに貼られていたり、
ユーモラスな猫の私設博物館のようなものがあったり。
古民家の間にそういうちょっと次元の違うものがひょいと現れる。
そうかと思うと古い三重塔に出たり。


Sさんとはロープウェーを下りた先で落ち合うことにして
切符を買って乗り込む。片道280円。往復だと440円。
でも普通帰りは歩いて下りてくるか。
50円のしおりも買った。
ロープウェーに乗る。30人乗りだったか。ほぼいっぱいになった。
365mで3分。ガイドさんが一緒に乗って「右に見えますは…」とガイドする。
足元を通過する巨大な岩石の上に、言い伝えを元に光る玉を模した
球形の石が置かれていたのが気になった。


Sさんと合流。さっそく展望台の屋上へ。
目の前に山々かと思いきやその手前と奥に穏やかな海。
その向こうにさらにポコポコッと小さな島々。初めて見る風景。
瀬戸内に住んでいるとこれが見慣れたものとなるのがどこか不思議。
玉出身のJさんは逆に海というものが怖かったと。
僕にはこの全てが巨大な群生生物の長い眠りにつく姿に思えた。
細胞が寄り集まって何らかの器官を形作り、
それが静かな体液の中、表面に浮かび上がっている。
空気に触れてその皮膚が固くなっている。


向島に渡るための尾道大橋がかなり東の方にあって、
昨晩最終22:30を逃していたらタクシーを捕まえてぐるっと回り込んで
ものすごく割高になったんだなと。ぞっとする。
僕らが泊まったふたつ並んだ宿を探してみる。
夜中に渡船を下りて宿まで歩いたときには
その島のことは寂れたその一帯しか知らなかった。
今、こうやって遠くから見下ろしてみると
背後の向島はかなり大きいということが分かる。
ドラクエで最初の村の周囲から始めて、世界地図を手に入れたような感覚。


展望台の周りのベンチには「恋人の聖地」と書かれていて、
地図を見るとその名前の場所があった。
カップルがここを訪れると別れるとの噂があるとかないとか。
そういうの全国にありますよね。
吉祥寺の井の頭公園のボートであるとか。
Yさんは札幌のホワイト・イルミネーションを挙げる。


石段を下りていって千光寺へ。
境内の裏手が白い壁になっていて修学旅行生が
相合傘や××参上のようなものをたくさん書いている。
なかには恋人たちふたりの名前の上に「900回記念」とあって、
これってなんだったのだろう? もしかして?
リラックマのお守りや絵馬が売られていた。
本堂に向かうと読経が聞こえる。
スピーカーから聞こえてくるのはまさかテープなのか。そんなことはないか。
尾道の町並みを見下ろすとアーケードを外れた商店街の広場に
子供たちが集まって賑やかに動き回っている。白いものが覗いている。
あれは雪か。あとで近くまで行ってみると確かにそうだった。
年に一度南国の子供たちに雪に触れさせるお祭り?
昨年紀伊勝浦でも見かけた。


そのまま下りていって「イーハトーヴ尾道」のエリアへ。
http://www/ihatov.in/
古民家再生のプロジェクトとアートが結びついた実践の形か。
カフェ「梟の館」、「招き猫美術館」、「尾道ハーブ園 ブーケダルブル」、
(ロープウェーに乗る前に見かけたほうきを修理中の魔女はここだった)
「SAKA Bar」、招き猫の置物が民家の屋根や塀の上に置かれた「猫の細道」、
大林宣彦監督の短編上映や地元の美大生の作品を展示する「尾道アートスペース」
(残念ながら休館中)などから成り立っている。
せっかくだから「梟の館」に入ってみる。かつては古い別荘だったらしい。
木造の、訪れる人たちがそっと触れないと壊れそうになる繊細な空間。
その中に大小様々1,500体もの梟の剥製や置物が隙間なく溢れ出している。
よくぞここまで集めたものだ。
地元の人がお土産にもらうとそっと追加いているのかもしれない。
寒かったのでホットワインを飲む。
トイレにCDシングルのジャケットが飾られていて、天野月子「ウタカタ」
このトイレ(もちろん梟あり)の中で撮影された。
2階は梟博物館。追加料金200円で入れる。
ギシギシ鳴る階段を上っていくと小さな展示スペース。
小型のペンライトをひとりずつ手渡されて、
薄暗い中をぼんやりと照らしながら見る。
ハンガリーの陶窯「ヘレンド」が特別な会員向けに頒布した梟の置物8体や
バカラ製の梟、木を組み合わせて作ったアイヌの神殿など。
アイヌでは梟は大地の神であるとのこと。
壁には梟に関する知識を。ミミズクは梟の一種なんですね。
耳がないとかそういう区別ではなく。
ニュージーランドのキーウィも梟の仲間。