David Thomas 『Erewhon』など

先日の Pere Ubu に引き続き、ヴォーカルの David Thomas のソロへ。

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David Thomas & Two Pale Boys 『Erewhon』(1996)


1990年代後半、David Thomas はソロプロジェクトの一環として
Two Pale Boys とのコラボレーションを開始する。
2000年代半ばまで続いたようだ。
Discogs を参照すると、配信のみで何枚かライヴアルバムを出していた。


トランペットとエレクトロニクスの Andy Diagram と
ギターとエレクトロニクスの Keith Moline がメンバーとなる。
David Thomas は Pere Ubu 同様、アコーディオンなど弾いているようだ。


これは結成直後、最初のアルバム。1996年。
翌年このアルバムの曲をもとにライヴアルバム『Meadville』を出している。
このライヴが素晴らしかったわけなんだけど
ここではまだ手探りで硬いかな。
Pere Ubu のギター・ベース・ドラム・シンセのロックなフォーマットの編成からは逃れたものの
リズム担当不在のバックのメンバー2人という構成が自由よりも、音の薄さとなって表れている。
1+1+1=3のまま。


「Erewhon」とは「Nowhere」のアナグラム
カラフルなロシア、オムスク周辺の地図(裏はクリーブランド)を用いたジャケットがかっこいい。

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David Thomas & Two Pale Boys 『Surf's Up!』(2001)


Two Pale Boys との2作目。
『Surf's Up!』とはもちろん、The Beach Boys / Brian Wilson の「Surf's Up!」のこと。
The Beach Boys の曲をカバーするグループは多いとしても、
幻のアルバム『Smile』の中核をなすこの曲をカバーする人はなかなかいないのでは。
少なくとも僕は他に聞いたことがない。
Van Dyke Parks が作詞した言葉と音の迷宮とでも言うべきか。
少年時代に抱く喪失感をここまで美しく表した曲は無いと思う。
Brian Wilson の最も奥深いところから出てきた、とても繊細な曲。
ゆえに安易なカバーを許さない。
David Thomas はそこに肉薄し、
Brian Wilson がイノセントなアメリカへの回帰、ノスタルジアだとしたら
David Thomas は狂気のアメリカへの地獄巡りとでもいうか。
David Thomas の扱うテーマの一つにローカル性、地域性というものがあるけど、
これを聞くとアメリカという国にとてつもないおぞましさを感じる。
Pere Ubu にはその名の通り「The Beach Boys」という曲があって、オマージュを捧げ続けている)


『Erewhon』での試運転が終わってここでは本調子。
得体の知れなさがそのまま音楽性の高さに直結する David Thomas は
Two Pale Boys との次作『18 Monkeys on a Deadman's Chest』で更なる高みへ。
実に威風堂々とした屈折。

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David Thomas 『Mirror Man』(1998)


こちらはソロ名義。
1998年に上演されたミュージカル『Mirror Man』の第一部をライヴ録音したもの。
メンバーがすごい。
Two Pale Boys が中核を担うのは変わらず。
元 Fairport Convention の Richard Thompson と結婚して、一緒にアルバムを出していた
Linda Thompson が(なぜか)歌っている。
Van Der Graaf Generator の Peter hammil も演奏に参加。
元Henry Cow で一時期 Pere Ubu のメンバーだった Chris Cutler も復帰している。
マニアックなところでは、元Golden Palominos の Robert Kidney の名前も。
アンダーグラウンド・オールスターズのような面々。


Pere Ubu
「Over the Moon」「Bus Called Happiness」「Memphis」なども交えつつも
このミュージカルのためにつくられた曲が大半か。
演奏の切れ味は鋭いんだけど、
ヴォーカルが普通に歌える人だとなぜか魅力が半減してしまうという不思議。
David Thomas のふにゃふにゃした、ガスのような、
アクは強いが芯のない声のための音楽なのだなあと実感。
ゲストヴォーカルに向かえるならば
Captain Beefheart や Nick Cave のような同じぐらいアクのつよい、
ブルース臭の強い人だとまた違う印象になっただろうと思う。