Inspiral Carpets『The Beast Inside』

先日 Amazon でオーダーした
Inspiral Carpets のデビューアルバム『LIFE』のデラックス・エディションが届いた。
1990年発表。The Stone Roses の1枚目が少し早く1989年。
Happy Mondays 『Pills 'n' Thrills and Bellyaches』も1990年。
どれもマンチェスター出身で踊れるインディーロック。
マンチェスターが一大ブームとなり、やたら青田買いされるようになった。
アメリカでは Nirvana が登場して SUB-POP レーベルが脚光を浴び、グランジへ。
ロックが賑やかだった最後の時代かもしれない。


雨後の筍のようにバンドは登場したものの長続きせず、
マンチェスターの狂騒が始まってから4枚以上アルバムを出せたのは
Inspiral Carpets と The Charlatans だけかな。
The Stone Roses でさえ、全盛期には2枚しかアルバムが出せなかった。
どちらも聞けばすぐわかるそのバンドの個性があって、
何よりも曲がよかった。単純な話だ。


『LIFE』には DVD がおまけでついていて、90年のライヴ。
会場はそんなに大きくはないもののギュウギュウで熱気にあふれ、
ヴォーカルは日本人のお土産なのか小さな電々太鼓を手に現れた。
途中で女性のマーチングバンドがステージに登場した。
なんでもありの時代だった。
目立つのはやはりサイケデリックなキーボードとスキンヘッドのベース。
ギターの印象はほとんどない。スタジオアルバムでも。
それゆえか世間一般的にはもっさりした印象を持たれていたように思う。
トレードマークというかマスコットキャラクターが
アニメっぽくデフォルメされた牛だったり。
「moo!」と声も発していて、今思えばあれもロック界におけるゆるキャラの元祖かもしれない。


人気のアルバムでは『LIFE』であったり、
シングルでは収録曲の「This Is How It Feels」なんだろうけど
Inspiral Carpets - This Is How It Feels
https://www.youtube.com/watch?v=J-fX0UbpZls


個人的にこっちの方が名盤なんじゃないかと思うのが2枚目の『The Beast Inside』
1曲目の「Caravan」こそ跳ねるようにキャッチ―だけど、以後、重くて暗くて長い曲ばかり。
1枚目はまだ若さゆえのスピード感があったけど、かなりテンポを落とした。
総じて地味。
それまでは The Stone Roses と並ぶマンチェスター2枚看板的な位置づけだったけど、
このアルバムから失速したようにメディアでは思われた。
でもここで足場を固めたからこそ、次のアルバムが出せたんですよね。たぶん。
Beast Inside」「Niagara」「Mermaid」「Further Away」といった後半の流れが特によくて、
噛めば噛むほど味の出るスルメのような出来栄え。
今でも十分聞ける。聞きこめる。
これが成長というものだろう。
デビュー前に演奏していた曲をただ1枚目、2枚目に振り分けただけのバンドだと多くが失速していく。
2枚目の時点でしっかり方向性を定めて進んでゆくからこそ3枚目が出せる。


そしてその3枚目「Revenge of the Goldfish」も素晴らしい。
威風堂々と、Inspiral Carpets の音を鳴らす。
アルバム未収録のシングル「How It Should Be」では疾走感も取り戻した。
ちなみにジャケットは写真家サンディー・スコグランドの同名の写真を利用している。
牛のゆるキャラでつかんでおいて、実はアートにも詳しい。
こういうしたたかさが大事なんだな。