静嘉堂文庫美術館へ

昨日は妻のリクエストで二子玉川静嘉堂文庫美術館へ。
今の場所での展示は終了して、来年から丸の内の明治生命館に移るという。
その前に見ておきたいとなった。
結婚してすぐの頃は二子玉川に家を借りて住んでいた。
ある初夏の日、高級住宅街を散歩していたら静嘉堂文庫に出た。
高台の上にある、木々に囲まれた広大な敷地の中を歩く。
こんなところに美術館があるのか、岩崎弥太郎・小弥太の集めたものか、
入ってみるかと思うが、その時たまたま工事中で閉館していた。
その後も縁がなく。行ってみようと思うとまた長期の工事期間だったりして。
妻は友人と数年前に見に行っていた。
有名な、国宝の曜変天目は一度見ておいた方がいいと。
 
高島屋の駐車場に停めて、昼は本館6階の中華料理の店に入った。
食べ終えて商店街を歩く。とんかつ屋の「大倉」がかつてあった並び。
チーズ専門のビストロを見かけて、
こういう店がひょっこり出てくるのが二子玉川らしいと思う。
時間のゆっくり流れているような古びた住宅街の隙間に遊歩道を見つける。
以前住んでいたときには気が付かなかった。
歩いていると玉川という小さな川に出る。
この辺りの家は川に自ら小さな橋を架けている。
そのうちに高級マンションのような老人介護施設の立ち並ぶ一角に出る。
 
その先に旧小坂家住宅がある。
数年前に妻が友人と来たとき、通りがかって入ってみたという。
国分寺崖線の上に邸宅があって、
ここってほんとに東京23区? と思うような山道を登っていく。
よく整備された静かな道を行く。
振り向くと木々の間に二子玉川のビル群が見えた。
虫取り網を抱えた子供たちが「大きいの見つけたー!」と下の方で叫んでいる。
 
邸宅の中へ。
主は衆議院議員、後に貴族院議員を務めたという。
信州の出で信濃銀行や信濃毎日新聞社も経営していた。
L字型に細長く建てられて、多くの部屋から庭を臨むことができた。
洋室風の書斎は暖炉によく見ると窓に障子。
和洋折衷なのに違和感がない。
名のある建築士が丁寧につくったんだろうな。
1937年起工だという。
当時にしては珍しいセントラルヒーティングで、温風の吹き出し口があった。
縁側は畳敷きで、コロナ禍でなければ見学者はここで飲食できた。
弁当とお茶を買ってきて緑豊かな庭を眺めながら食べることができたら気持ちいいだろう。
畳半畳ほどの電話室や、
使用人を呼ぶためのブザーを集めたのが壁に設置されているのが興味深かった。
 
邸宅を出て坂を少し下ると静嘉堂文庫に出る。隣り合っている。
門をくぐって林の中に入り、曲がる。
木々に囲まれたまっすぐの坂道を上っていく。
美術館に出る。入り口前に行列ができていた。
整理券を配っていて、次の14時の回まで待つことになった。
閉館と聞いて慌てて来た僕らのような人たちが多いのだろう。
以前ここに散歩で来て工事で閉館していたときには斜面につくられた庭を歩いた。
今回は岩崎家の霊廟を見に行ってみた。
大きな狛犬が対になって守っていた。
石段の道を下りてまた門に戻り、坂道を歩いた。
 
14時になって中へ。すぐには入れず、さらにまた整理券をもらって
地下で曜変天目に関する映像を見ながら待った。
番号を呼ばれて上野かに戻る。
そこまでしても展示室はかなり込み合っていた。
人のないときに来ると静かでとても良かったと妻は言う。
 
今回のテーマは『旅立ちの美術』
三国志の別れの場面を描いた山水画
景徳鎮の絵皿も別れ別れの舟を描くなど。
国宝の俵屋宗達による源氏物語の屏風図や
重要文化財聖徳太子絵伝、尾形光琳の蒔絵硯箱。
右を見ても左を見ても国宝・重要文化財クラスがごろごろと。
これはやはりもっと前に、落ち着いて見るべきであった……
 
曜変天目。これがそうなのか。
思ったよりも小さかった。
黒の中に浮かび上がる透き通るような青の斑点。
失礼にもほどがあると思いつつ、
僕の第一印象はナマコみたいだな、だった。
地下の部屋で説明の映像を見たとき、
徳川家光の乳母だった春日局が病に伏した時、
家光はこの天目茶碗に薬を入れて飲ませようとしたという。
しかし家光の健康を願って薬断ちをしていた春日局
このときも薬を飲まずに胸元に流すだけだった。
以後、春日局がかつて嫁いだが離縁、
しかし産みの子供のいた稲葉家に代々受け継がれた。
それを岩崎小彌太が手に入れたが、
これは名品にして私用に使ってはならぬと。
 
その岩崎小弥太の還暦を祝って作られた
宝船を曳いて行列をつくる人形たちが最も印象に残った。
彼もまた卯年であったか。
稚児のような人形たちは額に兎のお面を括り付けていた。
 
今回の展示の図録と合わせて、
静嘉堂120選』という立派なつくりのカタログを買う。
これは一家に一冊だろうと。
 
美術館を出て玉川沿いにあるいて、商店街へ。
高島屋で妻の誕生日のプレゼントを買って
今回は環八経由で帰った。