梵珠山のこと

小学校の高学年や中学校のとき、
年に一回ぐらい、林間学校と言うのか、宿泊付きの遠足とでも言うのか、
少年自然の家に泊まった。
学校指定のトレパンを着て校庭に集まって、バスに乗る。
昼は地図を片手に山の中をオリエンテーリング
夕方は男女二人ずつぐらいの班になって炊事場でご飯をつくって食べる。
夜はもちろん男女別々の宿泊棟に寝るんだけど
消灯後も誰かのベッドに集まってヒソヒソ声で誰それが誰それを好きだとか
怪談話とか……
 
青森市の西側に住んでいると
梵珠山にある少年自然の家となることが多かった。
なだらかな山を越えて反対側。バスで1時間もかからない。
青森市かとこれまで思っていたけど、今調べたら五所川原市だった。
標高468m と低い山で、周りは自然が豊かというか鬱蒼と茂る森の中。
仏教になんか関係するのだろうか、
不思議な名前だなあと思いながら訪れて、またバスに乗って帰る。
 
しばらく忘れていたけど、最近また名前を聞くようになった。
定期的に盛り返すパワースポットブームや心霊ブームに絡んで。
相当霊力が強いらしいんですよね。
火の玉が出るとか UFO を見たという目撃談も。
恐山の祖霊信仰とは別の、自然神信仰となるのかな。
そう言われてみると、勘の強い子は夜泣き出していたような。
そっと抜け出して肝試ししてみようなんてもってのほか。
自然の、闇の深さに圧倒されていたように思う。
 
「梵」とはインド哲学におけるブラフマンのこと。宇宙の源。
サンスクリット語も漢字では梵語と書く。
梵珠山もインドから中国へと
大陸を渡ってきた人たちが何かを伝える山なのだろうか。
北の外れ、青森の地に流れ着いて。
「珠」は数珠が真っ先に思い浮かぶ。
火の玉の目撃談と重なるところがあるようなないような。
いや、その高い霊力を鎮めるためのものだろう。
今更ながら、すごい名前だな……
 
色々見ていたら釈迦の墓がこの梵珠山にはあるのだと。
そういえば近くの地名に「大釈迦」というところもある。
青森県の西側には梵珠山があって、
東側の新郷村にはキリストの墓があるとされる。
そして北側には恐山。
この三角形の中に僕は住んでいたのか。
どちらも民間信仰や伝説の域を出るものではないけど、
だからと言っておろそかにはできない。
そのきっかけとなるような出来事が何かしらあったのだろう。
そこに思いを馳せてみると面白い。