『大地の芸術祭』へ(その5)

日曜の続き。
車に乗ってキャンプ場を目指す。
直線距離ではすぐなのに、川に橋を増やさないためか一度逆方向に向かって迂回する。
途中に「越後妻有清津倉庫美術館」という施設があって寄っていく。
磯部行久というアーティストの業績を記念して建てられたもののようだ。
2階でその常設展。
僕は知らなかったが、芸術を通して表す批評の目が鋭い。
抽象でもなく具体でもなく、これは一つの作品なのだという強い主張を感じる。
一連のワッペンの作品、ブランドを表すはずの記号としてのワッペンから
記号性を強引にはぎとられて木枠の中に乱雑にはめ込まれた様子の
知的な野蛮さに圧倒された。
吹き抜けの壁には世界地図にバックミンスター・フラーダイマキシオン・マップを重ね合わせて
パイプに流れる液体で海流の流れを表した『海流資源図』
2階の別室には以前の『大地の芸術祭』で行ったプロジェクトの一つ、
かつての信濃川の流れた位置を何百本もの黄色い旗を差すことで示した
『川はどこへ行った』などの写真やデッサンの展示。
 
1階の一部屋と体育館で
大地の芸術祭』に参加しているアーティストの他の作品を展示していた。
金氏徹平川俣正大岩オスカールエステル・ストッカーといった名前を覚えた。
前日土曜に見た『教室』の河口龍夫や、イリヤエミリア・カバコフの作品もあった。
各エリアの会場内に実際に設置している作品の写真も添えられていて、
イメージの近いもの、全然違うものとがあるのが興味深かった。
体育館の外にはプールがあった。かつては学校だったのだろうか。
その水の抜かれたプールがそのまま『プールの底に』という作品となっている。
黄色く塗られたピアノが置かれ、鍵盤を押すことができる。
自分が鍵盤を押したかどうかに関係なく、どこからか音楽が聞こえる。
周囲の民家の風景と相まってなんとも不思議な空間を作っていた。
 
ボランティア・ガイドの方から聞いた
『カクラ・クルクル・アット・ツマリ』を目指す。
小さな集落。温泉施設を通り過ぎる。
田んぼの中を走る。この日は晴れ。もくもくと入道雲
夏の雲もそろそろ見納めか。
途中、『ポチョムキン』という展示があった。名前に引かれて停まってみた。
ガイドブックを読むと廃棄物が不法投棄されていた場所を整備して
フィンランドの建築ユニットが公園に生まれ変わらせたといったことが書いてあった。
赤錆びた鋼板で囲まれた空間に古タイヤのブランコ。
片隅には巨大なトラクターと思われるものの部品。
鋼板の隙間から稲穂実る田んぼ、その奥で農家の方が一人作業を行っている。
反対側の開けた空間には小川。その向こうの夏空、夏雲。
元々あった木々の配置もうまく活かして、静かな美しい空間となっていた。
無骨な鋼板による壁もロシアフォルマリズムの残響のようで。
冬、雪に閉ざされたこのポチョムキン公園にまた来てみたいと思った。
 
そのすぐ先に『カクラ・クルクル・アット・ツマリ』があった。
道端に何台か停まっている。
さすがにここまでくると車がないと見に来ることができない。
田んぼの間の道。その両端に立てられた何十本もの高い高い竹竿。
その先に括りつけられた手作りの風車にはどれも農民と牛の人形が添えられている。
風が通るとカラカラ、カラカラカラと鳴る。
道をまっすぐ、竹竿に囲まれて歩いていく。
風が通るとそれに合わせて風車が回りだす。
風がなくなると音が止んで代わりに流れる水の音が。
田んぼのにおい、肌にあたる風。風車にトンボが止まる。
五感で感じることのできるアート。これが、「アート」なんだな。
バリ島と日本、自然とアート、いろんなものが重ね合わされて様々な新しい意味、体験を生む。
清津峡渓谷トンネルの『Tunnel of Light』を別格として、それ以外ではこの作品が僕の中でベスト。
その次が『ポチョムキン』となるか。
 
この日はもうこれ以上見るものはないだろう、と帰ることにした。
その途中にあった作品の『たくさんの失われた窓のために』を見て最後にする。
フォトジェニックで悪くはないのだが、『カクラ・クルクル・アット・ツマリ』の後だと
どうしても物足りなく感じてしまった。五感に訴えかけるものに乏しい。
 
あとは帰るだけ。
塩沢石打ICの手前のコンビニに寄った後で高速に乗る。
あとはひたすら飛ばす。
14時過ぎ、遅くなった昼は赤城高原SAで。
ここのフードは充実していてどこにするか迷う。
本格イタリアンの店もあったが、結局は豚肉・ホルモンの食堂に。
僕は塩ホルモン焼き、もつ煮込みの定食。妻はソースかつ丼
途中まで順調だったが、本庄小玉ICの辺りで事故渋滞。
追い越し車線で派手にぶつけていた。
それ以外は順調で、17時過ぎには帰ってきた。
 
新潟も暑かったが東京も暑い日でエアコンは入れず。
留守番のみみたには悪いことをした。
 
2日間で撮った写真は1200枚越え。
整理するのが大変そうだ……