投票の朝

6時に目が覚めて布団の中でうつらうつらする。
後味の悪い夢を見て明け方目が覚めて、
また別の後味悪い夢を見た。
もうひと眠りするかとも考えたが、眠れなくなった。
 
練馬区議会議員選挙の日だと思い出し、
着替えて投票所に当たる近くの小学校へ。
周りに歩いている人は誰もいない。
早朝の通りを一人きり歩く。
 
突き当りを曲がって小学校のある通りに出ると急に人の往来が増える。
校門のところに立っていたガードマンが挨拶するのでこちらも返す。
目の前を若い夫婦が並んで歩いている。
小さな声で何かを交わしている。
 
ひと気のない小学校の教室を垣間見るのが僕は好きで
下駄箱にはまばらに上履きが入っている。
ある年に5年生が作ったというモザイク画のようなものがその上に飾られている。
聞こえるはずのない子供たちの笑い声が聞こえる。
 
投票の手続き。僕の名前を書いた紙を読み取り機にピッと当てる。
これ、なりすましできるよな、と思う。
目の前の担当の人が僕の名前と顔を覚えているということもないだろうし。
誰か他の人が僕の名前の書かれた紙を持ってきても投票できてしまう。
 
渡された紙を持って衝立で遮られた小さな空間へ。
あらかじめ決めていた候補者の名前を書く。
間違えのないように探すが、50人近くの名前があって時間がかかる。
届け出順だったのだろうか。いや、案外50音順だったのか。
 
投票箱に入れる。目の前の夫婦は紙を真ん中で折って入れていた。
あれ? そうするのが正しいやり方何だっけ?
誰かに読まれないようにということか。
一瞬迷う。僕はこれまで折りたたまず、そのまま入れていた。
 
投票箱の奥に4人の立会人が座っている。
等間隔に空けられた椅子の上に無言で、微動だにせず。
僕だったら暇で困ってしまうだろうな。
この4人が焦って立ち上がり、それは困ります! と騒ぎ出すことはあるのだろうか。
 
白票でもいいから投票すべき、投票所に行くべき、選挙権を行使すべきという主張と
白票は意味がないのできちんと候補者を選んで書くべきという主張とを読んだ。
こういう理由で白票は好ましくないという話だったんだけど忘れてしまった。
そういえば「支持政党なし」という名前の政党が出てきたことがなかったか。
 
投票は一瞬で終わる。
家から投票所まで片道5分、15分もあれば往復できる。
なのになんというか、精神的に時間のかかるように思う。
日常の中にひと手間入ってくるというような。
 
帰ってきてコーヒーを淹れる。
猫のみみたがおもちゃのネズミを咥えて階段を上ってくる。
遊ぼ、遊ぼと言う。
ここからいつもの日曜が始まる。いつもの日曜に戻っていく。