椎間板ヘルニア

4月上旬の日曜、左肩の肩甲骨の辺りが痛む。寝違えたのではないかと思う。
そのうち治るかとほっとく。いつものこと。
2・3日しても痛みが引かないので「おかしいなあ」と思いつつも
仕事が忙しいのでそのままにしておいた。
痛いといっても日常生活に差し支えるほどではない。
その後2週間ぐらい経過したら痛みが薄れた。
「年取ったから治りが遅いのだな」とそのときは考えた。
ゴールデンウィーク明けからまた痛くなり出す。
肩って捻挫するのだろうか?それが病院行かなかったから再発??
もしかして骨に細かなひびが入っていて固まりかけていたのがまたひびが入ってしまった?
なーんか悪い予感がするなあと思いつつも
仕事が忙しくなって病院に行こうという気持ちにならず。
それが今週になって左腕が時々熱を持ち、
左手の中指がピリピリと痛むようになった。
「やっべー。まじでこれやばくない?」とさすがに怖くなる。
昨日の夕方、社外での会議の後、会社には戻らず、
浜松町の貿易センタービルの14階にいくつかの診療科があると聞いたので
整形外科を訪ねてみる。


貿易センタービルの中にあるだけあってその辺の町医者じゃないだろうし、
完全予約制だったらアポイントだけとって帰ろうと思っていたのだが、
行ってみたら全然混んでなかった。結構穴場かもしれない。
小さな診療科が各種並んでいる。総合病院のミニチュアのようだ。
受付にて聞いてみると僕の前には3人しか患者がいないということなので
そのまま待って診察を受けることにした。


横長の椅子に座って待っていると、いろんな人が次々に診察券を持って受付に現れる。
その中で何人か、決まって初老のサラリーマン風情の男性が、
「ケンインお願いします」と受付に告げ、診察も受けずにカーテンの中へ消えていく。
検印?なんだろう??と思う。
カーテンが開いたままになったときがあったので観察してみると
椅子に座った男性がこちらに背を向けて座っていて、
頭にオウム真理教で話題となったヘッドギアのようなものをつけていた。
ヘッドギアの天辺からは太目の針金?が延びていて、天秤のような器具に繋がっている。
そこから下へと辿っていって「あー、なるほど」とわかったのであるが、
どうも錘で引っ張って首や背骨を伸ばしているようだ。牽引。
世の中にはいろいろな治療があるものだと感心する。


僕の番になる。上で書いたような症状を医者に告げる。
僕が話した内容をすさまじいスピードでカルテに書いていく。
Yシャツを脱いで背中を見せるのかなと思ったらそんなことはなく、
「私のするのと同じようにしてみてください」と
腕を前に出したり、横に水平にして手の平を上にしたり下にしたりする。
痛みを感じますか?と聞かれて「特に感じないです」と僕は答える。
ふむふむと医者はうなずく。
「じゃ、レントゲン撮ってきてください」と言われる。
通路の突き当たりの部屋で首を4枚、肩甲骨を2枚、レントゲンを撮る。
現像したものをまた持っていって、何人かの治療が終わるのを待って再度診察を受ける。
ミニチュアだけあって何もかもスピーディー。30分かかったかどうか。
大きな病院に行ってたらこれだけの流れに1週間に1度通って3週間かかるところだった。


レントゲンを1枚ずつ見ていく。
肩甲骨に異常はないね。
指の先が痛いってことは首から肩、腕、手と繋がる神経ってことになるんだけど、
骨もまた異常はないようだ。
そうなるとね、椎間板ヘルニアの、まだ痛みがそんな強くないようだから初期の段階となります。


椎間板ヘルニア
はあ・・・。
あんまよくわかってないんだけど、これで死ぬことはないにせよ、やっかいな病気。
持病となって抱えていくような。
そんなイメージがある。
「やっちゃったなあ・・・」と思う。
聞いた瞬間少しばかり途方にくれる。


説明を受ける。
痛みがひどければ薬を処方するのだが、普通は処方せず「牽引」しますとのこと。
あれか。
まさか僕もやることになるとは。
体重いくらですか?と聞かれて「66か7」と答えると、
「11キロ用意して」と看護婦に声をかける。
「はーい」とカーテンの奥から返事が返ってくる。


さっそく治療を受ける。
天秤からぶら下がったヘッドギアに顎を乗せ、マジックテープであちこちを留める。
「10分間です。痛かったらすぐ言ってください」
ボタンが押される。
徐々に顎が持ち上げられ、首が引っ張られ、やがて上半身全体が。
「お、お、お、お、お、」と思う。
無理やり引き伸ばされている奇妙な圧迫感は確かにあるものの、
これまで微妙に歪んでいた背骨が真っ直ぐになるせいか結構気持ちいい。
そして左手中指の痛みがスーッと消えていく。
あーそのものズバリ典型的な椎間板ヘルニアだったんだなー。
ある程度の長さ引っ張られたままになって、それがシューッと元に戻って。
その繰り返しが延々続く。
これ受けてるとき知ってる人に見られたくないなあなんて思う。
正直なところみっともない。少なくともかっこよくはない。
延びたり縮んだりを繰り返している間、看護婦がバタバタと目の前を行ったり来たりする。
初めてなのでちょっと恥ずかしい。


10分後、また医師の診察へ。
気持ちよかったですか?と聞かれて気持ちよかったですと答える。
曰く、20%の人がこの治療で効果はなく、5%の人が悪化します。
残りの75%の人はだいたいこの治療で治ります。
最初の1回目で気持ちよかったという人は75%の方に入ることがほとんどです。
そう聞いてほっとする。
でもこの牽引を最低30回はやらなきゃいけないようだ。
しかも週3回。週1回程度ではほとんど効果なし。
当面の間平日の昼の時間、会社をそっと抜け出して牽引治療を受けることになる。
ま、そのうち治るだろう。姿勢をよくしていれば。
この治療を受けた後、背骨が真っ直ぐになったせいか背を曲げて歩く気がなくなる。
しゃきっと背筋を伸ばして1日を過ごした。


僕は小さな頃から母に「姿勢が悪い」と言われ続けていた。
その後必ず、「体が歪んでると大人になってから痛むよ」と続く。
そのたびに「はいはい」と思う。真剣に受け止めない。
自分だけはそんなことならないだろう、なんて考えていた。
あの頃のツケが確実に降りかかってきた。
あー僕もこれで「大人」の仲間入りだ。
体のことってほんと馬鹿にできない。


夜になってから、左肩ではなく右肩が痛くなってくる。右の中指がピリピリと痛む。
これまで右か左に負担がかかっていたのが、バランスを取るためにこんなことになるのだな。
今日起きてみると痛みはなくなっている。右も左も特におかしくはない。
でもまたほっとくと痛みが戻ってくるのだろう。
牽引行かないとなー。