Sgt.Peppers Lonely Hearts Club band

昨日ビートルズについてちょっと触れたついでに。
「Smile」の海賊盤にこっそり収録されていたことから
「Sgt.Peppers」をほんと何年ぶりかで聞いた。
最後に聞いたのはもしかしたら学生時代半ばぐらいの頃かもしれない。


「Sgt.Peppers」は中学・高校のビートルズキチガイのようにはまっていた時期でさえ
ほとんど手に取ることはなかった。
コンセプト・アルバムの走りとして、サイケデリックな時代の幕開けとして、
「Sgt.Peppers」をビートルズの最高傑作と捉える人たちが古今東西後を絶たないのであるが、
僕にしてみればなんだかこのアルバムは「浮いてる」ような気がしてならなかった。
異質なもの。ビートルズのアルバムはどれも異質なものであるが、その中でもさらに異質なもの。
一言で言うと「なんだか居心地悪い」正直に言って。
他のと比較しても小粒な曲が多いし。
いわゆる青盤(「1967-1970」)には4曲選ばれているが、
冒頭の3曲(「Sgt.Peppers ...」「With A Little Help Of ...」「Lucy In The Sky ...」)と
最後の1曲(「A Day In The Life」)という組み合わせであって
間に挟まる曲は最初聞いたときかなり印象に乏しい。
例えば「Fixing A Hole」なんてビートルズの歴史上、どれほどの意味を持つ曲だろうか?


それが、もう何年ぶりかで聞いて初めて、
「ああいいアルバムだったんだな、これは」という気持ちになった。
個々の曲がどうこう、ではなくトータルなものとしてその起承転結を味わうべきものなのだ。
観客の歓声に包まれつつ「Sgt.Peppers ...」で幕を開けて
リンゴ・スター扮する「ビリー・シアーズ」が紹介され、「With A Little Help Of ...」を歌う。
幕間喜劇のような曲が並んでいって、「Sgt.Peppers ...」のリプライズでクライマックスへ。
アンコールというか幕切れというかアフター・アワーズというか、
全ての終わりを告げるものとして「A Day In The Life」のイントロが始まる。


「She's Leaving Home」は慎ましくも儚げな美しさを秘めていて
「Lovely Rita」はトチ狂ったラブソングとしてはなかなかのものだ。
「Being For The Benefit Of Mr Kite!」や「Good Morning Good Morning」で聞ける
ジョン・レノンなりのサイケデリック感覚も楽しさに満ち溢れた楽曲として結実している。
なかなかのものじゃないか。
この年になって、それまでいろんなロックのアルバムを聞いて、
ようやくその良さというか「意味」がわかった。


ここでは何もかもが走馬灯のように鳴らされていて、
「死」というものがそこに横たわっているのを感じさせる。
(誤解のないように言っておくが、直接死が描かれているのではない。あくまで僕が感じた印象として)
ビートルズのアルバムの中で死を感じさせるアルバムってこれだけだ。
もちろんジョン・レノンが暗殺されることを予言したとかそういうことではなくて、
普通の名もなき人々の最後の瞬間に頭の中に押し寄せては消えていくものって
こういう音の流れなんじゃないか?ってこと。
そうか、と僕は思った。
10代の少年にとっては異質なものとして近寄りがたいのも当たり前で、
30代に差し掛かった今では皮膚感覚として
アルバム全体を貫くこの得体のしれない雰囲気がなんだかよくわかる。


「死」を暗示させるってことで言えば最終曲の「A Day In The Life」が最もその性質が濃いものとなる。
この1曲だけでも走馬灯のようになっている。
人生の1日を切り取って淡々と描いたものであるということ。
ジョン・レノンのメランコリックな歌声。オーケストラの奏でる不協和音がどこまでも高まっていく。
そして最後の最後にピアノの鍵盤がバーンと叩きつけられる。
その余韻が消えていって、一瞬の静寂の後、
例の「犬にしか聞こえない周波数の音」と
「逆回転したら『スーパーマンのようにレイプしてやる』と聞こえるセリフ」ってのは
まるで「コト切れた後」を音で表しているかのようだ。


確かにこれはビートルズの最高傑作なのかもしれない。
何かを嗅ぎ取った人にとっては。
もしかしたら人によってはここに「生への希望」を読み取るかもしれない。
ありえないことではない。
多面体のようになっていて様々な解釈がありえる。
なのにそれは元を正せばただ単に
曲を書いて演奏してそれを録音して編集したものの寄せ集めでしかないことに思いを馳せる時、
驚愕せざるをえない。もしかしてここには奇跡的な時間が閉じ込められているのではないか?
そういうアルバムってビーチ・ボーイズボブ・ディランキャロル・キングと、
そういった人たちの何枚かぐらいしかこの世には存在しない。
その中でもこの「Sgt. Peppers」は群を抜いて
「この世ならぬ超越した普遍的な何か」を表現している。


ほめすぎかな。
でもそれぐらい深いもののはずなんだよな。
「Sgt. Peppers」が1枚通して1つの物事を語っているのだとしたら
ホワイト・アルバムは全くもってバラバラな曲が無造作に並んでいるがゆえに
正反対の性質を持つものであって、それはそれでとてつもない存在感を放っている。
その原点となった「Revolver」にもっと聞き込むべきものは有りそうだし、
そのルーツは「Help !」ぐらいにあるのでは?いやもっと遡るべき?
こんなふうに考え出すとビートルズをまた1からじっくり聞いたほうがよさそうだ。
30にして「Please Please Me」に新発見!ってことになったら面白いかもね。