先週買ったCD #53:2021/10/11-2021/10/17

2021/10/11: diskunion.net
Cluster 「II」 \1800
Cluster 「'71」 \2450
 
2021/10/15: www.amazon.co.jp
Tortoise + The Ex 「In The Fishtank 5」 \94
 
2021/10/15: diskunion.net
The Wsdding Present 「The Hit Parade Expanded Edition」 \2400
 
2021/10/16: tower.jp
The Beatles 「Let It Be Special Edition」 \17420
 
2021/10/16: diskunion.net
The Slits 「Return of the Giant Slits」 \1200
 
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Cluster 「'71」
 
本場イギリスのプログレがブルースやクラシックという
ルーツのはっきりした音楽であるのに対し、
ドイツのプログレKraftwerkTangerine Dream に代表されるように
電子音楽に傾倒したグループはあるものの
どちらかといえば突然変異的な得体のしれないものというイメージがある。
1960年代末という時代のせいか、Faust や Amon Duul のように
コミューンで自由奔放な生活を送る中で生まれてきた音楽、
というひとつの傾向もあるからか。
Can もクラシックやジャズを演奏してきたメンバーが、
それらを全て捨てさるところからスタートしている。
 
過去を持たないがゆえにドイツのプログレに感じるのは
空間や宇宙といった音の広がりであって、
イギリスのプログレに感じるのは時間や歴史、
音楽様式の継承や、魔術や伝説といった文化、ということになる。
 
いくつかのグループは初めて楽器を手にすることによる
(多くの場合は世の中に出回り始めた電子楽器を目の前にしたことによる)
カオスを記録することから始まる。
Tangerine Dream の1作目「Electric Meditation」しかり、
Amon Duul の1作目「Psychedelic Underground」しかり。
Tangerine Dream は後の音楽性と180°異なる
荒々しい弦楽器や打楽器のぶつかり合いであった。
(Faust の1枚目もカオスであったが、それをそのまま出すのではなく、
 編集してコラージュとしたところに時代の先を見通す先見性があった)
 
2作目、3作目と続くうちにそれぞれのグループがその方向性を見出していった。
Cluster もそうだった。
後の代表作「Grosses Wasser」(1979)のように
素朴なメロディーを湛えつつも無機質な、ミニマルなアンビエント音楽を
彼らはスタイルとして確立していく。
1971年の1作目はジャケットにもあるように
オルガンやハワイアンギター、チェロといった普通の楽器と並んで
彼らは Audio-Generator や Amplifier を演奏したことになっていて、
何もかもが手探りな中、
音の出るものはなんであれ試して、録音機材も楽器と同等に扱っていたと思われる。
 
そこから出てくる音は無調の混沌。
起伏もなく構成らしい構成もない音、というよりも音響の記録。
そもそも曲という意識もなかったのだろう、
3曲のタイトルは便宜上”15:43”、”7:42”、”21:32”と
収録時間を書き連ねているだけ。
そこには宇宙空間や美しい自然といった具体的なイメージを掻き立てるものは何もなく、
音色の加工はなく、ただただ寒々しい音の塊が持続するだけ。
戯れといえば戯れ。
 
彼らの始まりもまたコミューン。ベルリンの。
Cluster は後にハンス・ヨアヒム・ローデリウスとディーター・メビウス
2人のユニットになるけど、
最初期は Tangerine Dream の1作目に参加した後にソロとなった
コンラッド・シュニッツラーが加わっていた。
その Tangerine Dream の1作目には
やはり Ash Ra Tempel の1作目にのみ参加して後にソロとなった
クラウス・シュルツェも加わっていた。
……というように離合集散を繰り返している様子が
原始の海から何かが生まれつつあったのを感じさせる。
 
1960年代末のベルリンには途方もないエネルギーに満ちた音楽的カオスがあったのか。
それとも数人、十数人規模の尖った人たちがいるだけだったのか。
この頃はどうだったのだろう、というのがとても気になる。
 
2作目以後の彼らは曲にもタイトルが付き、音も整理され、
それぞれ何らかの感覚的なイメージを伝えようとする。
 
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The Beatles 「Let It Be Special Edition」
 
ビートルズで好きなアルバムは、と聞かれると
10代の頃は「Revolver」と答え、20代はホワイト・アルバムと答えていた。
30代後半からは断然「Let It Be」
彼らにとってロックンロールという原点回帰の作品になるはずが、
物語の終焉となってしまった、その独特な雰囲気に惹かれた。
 
2017年に「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」の
50周年記念エディションが発売された。
ビートルズのアルバムのプロデューサーだったジョージ・マーティンの息子、
ジャイルズ・マーティンによってミックスし直され、とてもクリアな音になった。
以後、ホワイトアルバムや「Abbey Road」と毎年発売され続け、
最後は1970年の「Let It Be」かなと思っていたが、昨年出なかった。
コロナ禍とか諸事情あったのだろう。
1年待たされて、想像以上のボリュームで発表された。
スーパー・デラックス・エディションは
CD5枚組、DVD1枚にハードカバーブックという構成。
生産限定盤というので思わず買ってしまった。
10月15日発売、タワレコのサイトで予約して翌日届いた。
 
1枚目は本編のニューミックス。
ジャイルズ・マーティンがコメントを寄せているので、引き続き彼がミックスしたのか。
曲そのものは何も変えず、時代に合わせて音の鳴りをアップデートしている。
2枚目は1969年1月の後に「Let It Be」となったセッションのうち、
「Let It Be」収録曲の別テイクを。
3枚目は同じセッションから、後に「Abbey Road」に収録された曲の原型を。
”Something”や”Oh!Darling”など。ジョージのソロ ”All Things Must Pass”も。
4枚目はこのセッションをエンジニアのグリン・ジョンズが1969年に仮でミックスしたもので
今回のスーパー・デラックス・エディションの目玉。
フィル・スペクターがオーヴァー・プロデュースする前のラフな姿が残されている。
2003年の「Let It Be... Naked」よりもネイキッド。
5枚目は「Let It Be EP」として、1970年に追加でグリン・ジョンズがミックスした
”I Me Mine” と ”Across The Universe”の2曲と、
”Don’t Let Me Down” と ”Let It Be”のシングルバージョンで計4曲。
 
フィル・スペクター版をずっと聞き続けてきて
寂寥感漂う漆黒のポップ・ソング集のように捉えてきたけど、
このグリン・ジョンズのミックスを聞いて180°捉え方が変わった。
というか、僕はこれまでちゃんと聞いてきてなかったんだな。
トラディショナルの”Maggie Mae”や
レノン=マッカートニーが活動初期の1960年に作曲した”One After 909”
そしてセッションからの抜粋にしか聞こえなかった1分ぐらいの”Dig It”
これらは彩りを加えるための添え物なんだな、と思っていた。
”Across The Universe” ”I Me Mine”を引き立たせるための。
 
違った。
1966年以来にライヴを再開するかもという話もあって
昔の曲をウォーミングアップでやってみたというのもあるんだろうけど、
それ以前に彼らはシンプルなロックンロールに戻りたくなったんだな。
「Sgt. Pepper's」や「Magical Mistery Tour」のサイケデリック
ホワイトアルバムのカントリー、前衛、ソウルと
ありとあらゆる音楽を飲み込んだごった煮を経ての。
先に立ったポールにもそういう思惑があったようだ。
そこにジョン、ジョージ、リンゴが乗った。
撮影風景を映画にしようというアイデアも実現された。
それが運命のいたずらで解散劇へと意味づけされてしまった。
フィル・スペクターもここぞとばかりにドラマチックな方向に持っていった。
 
悪名高いマネージャーのアラン・クラインが
The Long and Winding Road”にオーケストレーションを加えることに決め、
ポールが反対するもその意見は無視され、全世界に発売された。
この出来事が、ポールがビートルズを脱退する際に主張した3つの原因の1つとなった。
グリン・ジョンズ版の本来あるべき姿で聞いてしまうと
ただ甘ったるいだけのものに感じられてしまう。
 
今後どちらを聞くかというと10代の頃から聞き続けたフィル・スペクター版だろう。
(そのジャイルズ・マーティンによる新しいミックスを)
でもそれと同じぐらい、今回のグリン・ジョンズ版を聞いていくことになると思う。
彼らが残した「Let It Be」は本来こんなにもヒリヒリしたものなのか。
 
かつて映画版『Let It Be』のために撮影されたフィルムを再編集して
『Get Back』という2時間×3本で計6時間の映画にしたのだという。
これもいつか劇場で見てみたい。