The Residents 「Eskimo」

することのない日曜の午後、買ったけど封も開けてないDVDの山を少しは片付けようと
取り出したのがレジデンツの2枚。「Eskimo」と「Commercial Album」
どちらも代表的なアルバムを映像化したものとなる。


アンダーグラウンドかつアヴァンギャルド
アメリカには奇妙奇天烈な音楽性を持つグループというのが星の数ほどあるが
その中でもレジデンツはペル・ウブなどと並んで70年代のデビュー以来、
(多少失速した感はあるものの)今に至るまで常に孤高の輝きを放っている。
メンバーのバイオグラフィーは一切公開されていない。
海の向こうのキャラクター「目玉のオヤジ」にインスパイアされたのか
メンバー写真ではタキシードを着てシルクハットをかぶった、大きな目玉4人組。
その音楽性を一言で言うと「諧謔
モゴモゴしてなんだかよくわからない音の塊がシュールな音楽を
無理やりどこかのジャンルに押し込めるのならば
ジャズコンボのようであり、テクノポップのようでもあり。
とにかく「レジデンツ」としか言いようがない。
この世に存在するありとあらゆる音楽を吸収して咀嚼して吐き出して
音のバラエティーは確かに豊富なのに、何を聞いても一瞬でレジデンツと分からせてしまう。
幼子の見る悪夢をそのまま音像化するというか、
幼子の持つ残酷さを演奏する側には何の悪意もなく曲として成立させるというか。
偉大な存在である。
唯一無二な音楽を作るだけでなく、
早くからCD-ROMの作品を製作したり(たぶん全米でも第一人者)
メディアというものへの関心も高い。
発言をするという意味ではなく、人知れずコンテンツを提供するという意味で。

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「Eskimo」はその名の通り
古きよき時代のエスキモー(イヌイットと呼ぶのが正しい?)の生活形態を
音楽で表現しきったというとんでもない作品。
吹きすさぶ風の音に始まり、セイウチ狩りや誕生の儀式の模様が音の連なりによって再現される。
犬や鯨の骨で作られた楽器の音色がそこでは聞こえ、独自の音階を持つ曲まで演奏される。
本当にこういう音楽をエスキモーたちが奏でていたのかどうか、
もしかしたらレジデンツが勝手に想像/創造というかでっち上げたものなのかどうか、
僕にはよくわからない。
一応エスキモーのフィールド・レコーディングに基づいているらしいが。
民族音楽」としてちっとも正しくないものなのかもしれない。
でも、聞いてて確かにその気になってくる。
これぞ、エスキモーの生活であると。


79年に発表。以来ずっと名盤とされてきたものが、20年を経て映像化された。
エスキモーたちの日常生活を切り取った古い記録写真を恐らく元にして
静止画を多用したアニメーションへと変換。
白と黒と灰色と青という素朴な色彩がなんだか妙にリアル。
エスキモーの生活ってこうだったんだろうなあと素直に信じさせるものがある。
見てて思い出したのは「まんが日本昔ばなし
シリーズの中に時々あった妙にもの侘しい話の持っていた雰囲気に近い。


ユニークな表現に興味をもつ人はこのCDを是非とも聞いてみてほしいし、
映像の方も機会があったら見てほしい。
ちょっとした映画として成り立つぐらいのクオリティーの高さ。


ボーナス映像としてロバート・フラハティの記録映画「ナヌーク」(1922年)の映像に
レジデンツが音楽をつけたものが収録されている。
氷を切り出して家を作ったり、犬ぞりを引っ張ったり、セイウチ狩りをしたり。


なお、「こんな音楽じゃ踊れない」という的外れなことをのたまった批評家のために、
レジデンツは翌年、この「Eskimo」のディスコ・ミックスである「Diskomo」を出している。

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「Commercial Album」もまたとんでもないコンセプトを持っていて、
1分の長さの曲が40曲入っていて40分というアルバム。
もちろん、どの曲もバラエティーに富んでいて、
「Eskimo」とは別な意味でよくもまあこんなのを作れるものだと感心させられる。
80年の発表当初は4曲のみが映像化されていたのだが
ニューヨーク近代美術館に永久保存されたという)
リリース25周年を記念してなんと30人以上のアーティストに1分の曲の
ビデオクリップを作製してもらったのが近作。
どのアーティストの作品も不気味で得体の知れないレジデンツの雰囲気を
そのまんまなぞるようなものばかり。
これといって面白いものは正直なかったが、
イデアっていくらでもあるもんだねえと感心させられた。


レジデンツ自身が製作したクリップもあるんだけど、
(最も映像と音がマッチしているのは彼らの作品だ)
これらを見ている限りこの人たちは全く持って不可思議な存在であって
何を考えているのか全く持って分からんと驚かされてしまう。