Yさんのこと

今回のプロジェクトは超短期間であるため、
パートナー会社から大勢の人がやって来て開発・テストの要員として参加することになった。
その中にYさんがいた。
年が僕に近かったので、僕の下で働いてもらうことにした。
2人でテスト仕様書を作成したりした。
ある日、僕の机に貼ってあった僕のモロッコ本のチラシを見つけたYさんは
「買いますよ」と言う。「おー、そりゃどうも」と僕は言う。
amazon から届いて、週末に読んで、週明けになって曰く、
オカムラさん、読んでみて分かったんですけど、たぶん共通の知り合いがいますよ」
その話題で盛り上がる。確かにその通りだった。
Yさんの中学時代からの友人が、僕が学生時代のサークル仲間だった。


これまで僕はいろんなパートナー企業の方たちと接してきて、
程度の差はそれぞれ違うが、何人かは仲良くなった。
でも、もともとからある雇う側・雇われる側という立場の差があるため
なんとなくその関係性はぎこちないものとなる。
それが今回は「共通の友人がいる」ということで別の次元での接点が生まれたわけだ。
今回のプロジェクトが終わったあとも、
その共通の友人が上京してくるときにはYさんとも一緒に会うことになるんじゃないかな。


そういえばこの前の月曜の夜はサシで飲みに行った。

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というところまでは明るい話なわけであるが。


テストフェーズがだいぶ落ち着いてきて、
今大勢来てもらっている人員を来週から減らそうということになった。
リストアップは既に済んでいて、何人か通達が出されていた。
上司は「予算の都合上、あと、もう1人」と言う。
パートナー企業側のリーダーも交えた打ち合わせの場が急遽もたれる。
Yさんの名前が挙がった。
さらにもう1人、候補者の名前が挙がった。
「さて、どちらにしよう」ということになる。
・・・結果として、テストフェーズから参画していて
具体的な設計や開発には関わっていないということから、
Yさんに抜けてもらうことになった。


実は、上に挙げた理由を述べて、決定したのは僕だった。
Yさんとは個人的に親しくても、仕事は仕事。
よりよく物事が進んでいくパーセンテージを少しでも上げなくてはならない。
(でないと、こんな短期間の危なっかしいプロジェクト、いつ何が起こるかわかったもんじゃない)
実際、「いいんですか?オカムラさん。Yさんとは仲いいでしょう?」と言われる。
でも僕は「仕方ない」と言うしかなかった。


その後、「じゃあ、誰がYさんに伝えますか?」ということになる。
こちらの上司と向こうのリーダーは「どうぞどうぞお願いしますよ」と牽制しあう。
結局リーダーが伝えることになってその場は解散となる。


僕の一存で、Yさんを残すという選択肢もありえた。
でもそうしなかった。そうすることができなかった。
なんか僕からYさんに直接伝えた方がいいかなと思った。
そこから先のことについて、知らないフリはできない。
金曜になって「実は今日で引き上げることになって・・・」とYさんに言われて、
「え!?そうなんですか」と驚いて見せるのも白々しい。


僕は「Yさん、ちょっと・・・」とフロアの隅に呼び出して、「今週まで」であることを伝えた。
Yさんは、一瞬困った顔をしながら、「そうですか、わかりました。仕方ないですよね」と言った。
そしてお互い席に戻った。


ほろ苦い気持ちになった。


パートナー企業として来ている人に関して「こいつ役にたたねえ」と
そのときのパートナー企業のリーダーに相談して追い出したことならばこれまでにもあった。
「嫌な役回りだよなあ」なんて人ごとのように思っていた。
それが今回初めて、入社以来初めて、
自分で「あなたの仕事は今週まで」と告げる立場に回った。
それだけでもあんまり嬉しくないことなのに、しかもそれが
大勢いるうちの1人でこれまで特に接点がなくてあんまりよくわかんなかった人、
というのではなく個人的に仲良くなりだした人だったため、
余計にやるせない気持ちになった。
場合によっては当面仕事にあぶれることにもなるし。


良くも悪くもこれで自分は1つ大人になった、と思う反面、
大人になりたくないな・・・、と思ってしまう。

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この前の金曜、最後なので飲みに行きましょうってことになって、
何人かで飲みにいった。普通に飲んで普通に笑いあって普通に愚痴を言い合った。
楽しい時間を過ごして、終電に乗り過ごすところだった。


プロジェクトは終わりに近付いている。
全て片付いた後で、また飲みたいものだ。