こういう話を思いつく。

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あなたは小さな頃から「声」が聞こえる。
何の変哲もない声だ。これと言って特徴もない。
男性なのか女性なのかも分からない。


あなたは声が聞こえるということを周りの人たちに話せないまま、育つ。
幼年時代から思春期に至る段階の間に様々な戸惑いを経て、
自分以外にはこの声が聞こえることはないのだ、ということを知る。
他の人たちが同じように声を聞くことはないのだ、ということも学ぶ。


声はあなたに、指図をする。
何をするべきか、何を避けるべきか。
とある瞬間にふと訪れて、声は去っていく。


あなたは、声の言う通りに行動する。


1年以上声が現われないこともあれば、毎日のように声が囁くこともある。
その後の人生を左右する重大事に差し掛かっても
これまでのように示唆してくれないというときもあれば
その日の夕食は何にするかといったごく簡単な出来事に対して意見を言うこともある。


あなたは、声の言うことに対して逆らおうとはしなかった。
常に従順に従い続けた。
それが正しいことなのだと信じて。


そしてあなたは今、死の床に横たわっている。
大勢の人に見守られているのかもしれないし、
1人きり誰もいない部屋にいるのかもしれない。


声が聞こえる。
「あなたは今、死ぬことになった」


あなたはその言葉を受け入れる。死の中へと、落ちていく。

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ただ、これだけ。