こういう話

以前書いた話なんだけど、小説にできないかなと最近考えている。
もうちょっと掘り下げてみた。

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(父がだいぶ前になくなって、母はとある地方都市に一人きりで住んでいて、
 僕は僕で東京でアパートに一人暮らし)


田舎の「母」が住んでいる家の向かいにとある宗教団体が集会所を開く。
新興宗教というよりは、大手のよく知られた教団。
時々集会が開かれ、信者が集まっては帰っていく。
大きな物音を立てて騒ぐということもないし、異臭が発生するということもない。
スーパーで買い物をしているときに勧誘されたり、
母の家を訪ねてきて勧誘することもあるが、それほど押し付けがましくはない。
それも月に1度あるかないか。
教団の上の方からは近隣住民を巻き込まないようにとのお達しが出ていて、
よくわかってないおせっかいな新人信者がよかれと思ってやったことだったりする。
住民運動の時代を経て、地域との共存をいかに図るかに苦労した現代的な教団は
 波風を立てないことに腐心するようになる)


少しずつ、少しずつ、町の中に信者の数が増えていく。
小学校や中学校にその子供たちが入学する。
空き地や駐車場がつぶされ、新しい家が建てられる。
無理に勧誘されることはないとしても
その家の壁には教団を讃える小さなポスターが貼られていて、嫌でも目につくようになる。
近くに病院がなかったのに、その教団に関係するとされる総合病院が建つ。
救急病院にも指定されていて、けっこうしっかりした施設だったりする。
母の周りの人たちがその病院に通いだす。


東京に住んでいる「僕」はその話を電話で聞く。
母は「どうしたもんかねえ」としか言わない。
僕も「どうしたもんかねえ」としか言えない。
僕は東京で働いていてとても忙しい。
遠くにある田舎の話を聞いても自分の問題として理解できないし、理解したくない。
僕は僕で人生の岐路に立たされている。
33歳。会社を辞めて、先輩と共に独立すべきか。それとも今の会社に残るべきか。
趣味の方でも長年続けてきた××のコレクションがひとかどのものになってきた。
その筋では有名な人になりつつある。
ちっとも食えそうにないが、それはそれで思い切って追いかけてみたくある。


休みが取れて僕は田舎の家に帰る。
確かに家の前に集会所が建てられている。
家の近所を歩いていると見知らぬ人から「こんにちは」と挨拶される。
笑顔で挨拶されることは人としておかしなことではない。
教団の教義は「自由」「平和」「喜び」「優しさ」といった言葉を最初に持ってきていて、
その言葉自体は僕にも否定できない。
だけど、得体の知れない違和感を感じないではいられない。
そしてそれは僕の方から一方的に抱く「毛色の違う人たちを嫌う気持ち」でしかない。
複雑な気持ちになる。間違ってるのは僕の方なのか?
母は母で集会所の前で売っている、山奥で栽培した有機栽培した野菜を
「野菜に罪はないし」と買ったりしている。
現に今、母と食卓で向かい合っていて食べているすき焼きは
その野菜で作ったものだったりする。


母は半ば諦めている。
ここを出て行ったところで他に行く場所はない。
僕が母を東京に連れて行く?
結婚しているわけでもなくその見込みもない僕は
母と住むためだけの家を東京に、あるいは千葉や埼玉に建てるのだろうか?
それはそれでありかもしれないが、そもそも××のコレクションで貯金があるわけでもなく。
母だって見知らぬ人ばかりで友達のいない東京に住むってことでいいのだろうか?
その時が来たら母は老人ホームに入る、それぐらいの蓄えならあるという。
しかしそのホームだって教団の施設だったりして・・・


東京にもその教団はある。
今、電車に乗っていて向かいに立っている人もその教団の人なのかもしれない。
いや、この電車の中にいる人のほとんどがその教団の人たちであって
僕はこの国にわずかに残された非信者なのかもしれない。
気分的にどこか追い詰められ、そんなことまで考えるようになる。
思い悩むぐらいならば母と一緒に入信した方がいいのだろうか・・・
それで楽になるのなら。


何もかも忘れてしまいたくなる。
仕事をする日々が続く。


ある日僕はまた帰郷して、
亡き父の墓参りに行ってその後父の思い出の場所へと向かう。
夕方、母と共に予約していた温泉宿へ。
夜になって部屋のテーブルに向かい合って、僕は母に、僕が決断したことを伝える。

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今書いてるのがひと段落したら書こうと思っている。
今のが300枚ぐらいの割と大きなのだとしたら、
こっちは100枚ぐらいのさらっとしたやつで。


僕はこれ、地味で単純だけどまとまりがよさそうに思っている。いけるんじゃないかと。
でも、他の人にとっては面白いんだろうか?


得体の知れない何かに覆われた日々。
それでも続いていく、生活というもの。