「レスラー」

昨日、会社を休んで3連休。朝から映画を見に行く。
渋谷シネマライズに「レスラー」
月曜の初回ってこともあって、場内ガラガラ。
http://www.wrestler.jp/


その後、外苑前に移動して、
ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を体験しに行く途中で見かけたワタリウム美術館にて
「アロイーズ」展を見るつもりだったのが、事前にもう1度調べてみたら月曜は休館だった。残念。


さて、昨年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(最高賞)に輝いたこの作品、
ミッキー・ロークが主演だってことで、
え?ミッキー・ローク??まだ役者やってたの?カムバック??
と思った人も多かったはず、何よりもそこが話題だった「レスラー」
どうもこれがミッキー・ロークのはまり役、一世一代の名演技を見せるみたいだと評判で。
80年代の栄光の日々を引きずって、以来20年近く落ち目のプロレスラーが
心臓発作をきっかけに人生を見つめ直し、
ドクターストップを振り切って20年前の名勝負を復活させる。
これがミッキー・ロークの俳優人生そのまんま。
90年代以後出演作に恵まれず、離婚も経験、プロボクサーに転進するものもパッとせず。
(僕らの世代の人ならば覚えているかも知れないが、
 90年代の初めに国技館で1RKO勝ちを収めるものも「猫パンチ」と揶揄された)
スターダムからどん底までの転落人生。
セクシーな甘ささが売りの俳優が長続きするのは難しく、やがて忘れられ・・・
それが今や、ゴールデングローブ賞を初めとしてあちこちの映画賞で主演男優賞を獲得。
ベタだけど、「パルプ・フィクション」でのジョン・トラボルタに匹敵する復活劇。


20年前がキャリア最盛期ともなれば、プロレスラーとはいえ、
どれだけ鍛えようと体はハムのようにブクブクしているもんであって。
「ナイン・ハーフ」や「エンゼル・ハート」からすればまるで別人。
そっくりさんとしてはなかなかいい線いってるねー、お兄さんですか?ってほめたいぐらいの。
全編そのみっともない醜悪な裸体を晒してるか、
その上に穴が開いてツギハギしたダウンジャケットを着ているか。
とにかく、哀れを誘う。広い背中が常に無言で泣いている。
でも、それがいいんだよなあ。見る側からしたら。
不器用な男が、最後の最後、たった1つ自分が信じている物事を胸に、現実に戦いを挑む。
そういう話、どうしても入り込んで贔屓目に見てしまう。
そして僕もまた、このミッキー・ロークにやられた。
最後彼はボロボロになった体でリングに立つ。もうその姿だけでウルウルする。
この役を演じるために生まれてきた、そのためにこれまでの人生があった。
そうとしか言いようのない、有無を言わさないものがあった。
役者冥利に尽きるだろうし、こちらとしても観客冥利に尽きる。


彼は勝ったのか負けたのか、そこで死に絶えたのか、生き延びたのか。
映画は何も語らず終わってしまう。
その直後エンドタイトルに流れるブルース・スプリングスティーンの曲のかっこよさったらない。
ボスだよ、ボス。さすがいい曲を書くなあ。ジンワリと素晴らしい余韻を残す。
落ち目のミッキー・ロークを主演に据えるということで
監督のダーレン・アロノフスキーはスタジオと対立、予算を極端に減らされたようだ。
そのせいもあってか、ミッキー・ロークは旧友のブルース・スプリングスティーン
無償で曲を書いてくれるように手紙で頼んだ。
そしてボスは快く引き受けたのだとか。なかなかいい話だ。


蛇足ながら、80年代のプロレスがテーマだけあって、往年のヘビメタが劇中のあちこちに流れる。
最後のリングへと向かうミッキー・ローク、その入場の際に流れる曲がなんと
Guns'N'Roses「Sweet Child O'Mine」
(僕ら世代だとあのイントロが流れただけで涙腺が弱くなりますよね)
よく使えたなあ、使用するのにいくらかかったんだろうか?と下世話なことが頭の片隅で気になった。
エンドクレジットを見ていたら、Axel Roses に最大限の感謝を表すると特別な一行が流れた。
たぶん、企画に賛同してこれまたタダで使わせてあげたのだろう。
これはこれで、地味にいい話だなあと思った。


なんかそういう「いい流れ」が随所にあって、後押しされて、このヒューマンドラマを傑作ならしめた。
映画の神様に愛されてるんだろうね。
どん底から這い上がろうとしたミッキー・ロークにも振り向いてくれた。


そんな彼は次に何を演じるのだろう?
二枚目セクシー路線で女性にモテモテの役だったら、がっかりだ・・・