京都を歩く(後篇)

次に向かったのは二条城。徳川家康が造らせた城で、世界遺産に登録されているという。
これはとてつもなく広かった。
二の丸御殿の中に入ったんだけど、この通路がまた果てしなく。
大広間が一の間から四の間まであって、書院や勅使の間や老中の詰所。
屏風絵は狩野探幽の作だったり。
部屋によっては人形が置かれて将軍が大名たちに接見している場面とか大奥の様子とかが再現されていた。
とにかく壁も床も古く黒ずんでいて、床板は剥げてツルツルになっていた。
この中に徳川家康がいたのか、と思うと不思議な気持ちになる。
年表を見ると家康が豊臣秀頼に接見したとか、大坂冬の陣・夏の陣の会議を行ったとか、
大政奉還を話し合ったとか、日本史の重要な舞台だったわけで。
それがこの屏風絵だけが残る何もない広間で何百年も前に行われたのか。
感慨深かった。何かが漂っているように思われた。


外に出て庭園を歩く。天守閣の跡に上って京都を見下ろす。大文字焼きの山が見えた。
梅林へ。いくつかは既に少しずつ咲き始めていた。


その後向かったのは二条の商店街。
これまた果てしなく長く続くアーケード街。
寂れかけていたけど、まだまだ普通に市民の生活の場として機能していた。
「鍋リンピック」というイベントが行われていて、クジを引くと賞に応じて鍋の具材を貰える。
その引換所がアーケードの何箇所かにあった。
「ネコバッグ」なるエコバッグの持参が必須。
スピーカーからは商店街のテーマソングが流れていた。
渋い雰囲気の喫茶店がいくつかあり、自前で焼いているパン屋があちこちにあった。


二条駅に出て、長屋を改装した手作りアート系の喫茶店に入る。
ホットワインを飲んだ。2日前と違って陽が出て暖かい日だったけど、
歩き続けて疲れていたので温かい飲み物を飲むととてもほっとした。
澁谷征司という写真家の「BIRTH」という分厚い写真集が席に置かれていて、見てみた。
http://www.seijishibuya.com/
ヨーロッパを旅した時のものなのだろう、
何気ない、だけどどことなくさりげなくストーリー性のある風景。
後輩とは「プロの写真家ともなると余白の使い方がうまいね」という話をする。


時間が余って、二条駅前のショッピングモール「Bivi」に入る。
後輩にお勧めの本を聞かれて、ハヤカワ文庫の2冊、
ローリー・リン ドラモンドの『あなたに不利な証拠として』と
ロアルド・ダールの『あなたに似た人』を挙げる。
2階がゲームセンター。大勢の人たちが遊んでいた。
周りには何もなくて、ここが唯一の娯楽施設なのだろう・・・
大画面で競馬のゲームに興じている人たちの姿がなんだか不思議な雰囲気を放っていた。
それぞれの席にも小さなモニターがあって、傍目には教育施設で講義を受けているようでもあり。
4階が TOHO CINEMAS で、これから上映される作品たちのチラシを眺めた。
ジェイソン・ライトマン監督の新作『マイレージ、マイライフ』やパク・チャヌク監督の新作『渇き』や、
世界各国の映画祭で賞を取った『ハート・ロッカー』といったところが気になる。
TOHO CINEMAS では今、全国で名作映画50本を午前中に上映するというイベント
「午前10時の映画祭」ってのが行われているようで
今週が『明日に向かって撃て!』来週が『裏窓』
他のラインナップを見たら『ショーシャンクの空に』『スタンド・バイ・ミー』『ワイルド・バンチ』など。
これ、いい企画だと思う。
この日、後輩とは映画の話ばかりだった。


二条駅で後輩と別れる。京都駅まで二駅、乗る。高架を走る。
駅に着く。多少時間があって、最上階まで階段を上っていく。
下を眺める。いつ来ても思うけど、この建物は構造がとても面白い。
日本で一番好きな建物だ。


コインロッカーで荷物をピックアップして、改札をくぐる。
駅弁を買う。西明石駅の「ひっぱりだこ飯」
http://www.awajiya.co.jp/prod/prod_18.htm
壺の中に穴子やタケノコの炊き込みご飯が入っていて、蛸の足の煮物が乗っている。
なかなかうまかった。
そういえば2日前に京都来た時は寺町のアーケード街で
蛸薬師堂」ってのを見つけて中に入ったな。
霊験あらたかな蛸の像に触った。


18時過ぎの新幹線に乗る。
この日はビールは飲まず。なんかそんな気分じゃなく。
編集学校の最上級コース「離」の準備のため、松岡校長の『遊II』を読む。


東京に着いて、荻窪の駅を出たら雪が降っていた。