『プライベート・ベンジャミン』
70年代後半ぐらいから80年代前半ぐらいまでの
ウェルメイドなアメリカのコメディ映画を見てみたく思い、
そうだ、ゴールディ・ホーン主演のこの映画を、となる。
生粋のコメディエンヌであるゴールディ・ホーンが今回演じるのは
例によって愛すべきおバカさん。
お金持ちと結婚して優雅な生活を送るつもりが、結婚したその日に夫が腹上死。
混乱してわけが分からなくなって、たまたま誘われて陸軍に入ってしまう。
皆が軍服に着替えて最初の点呼を受けている際にもハイヒールで爪を磨いている場違いっぷり。
徹底的にしごかれて泣きだしたくなる日々を送るが、
突然連れ戻しに来た大甘のパパとママの登場に
逆にここで耐え抜いてみせようという気持ちになる。
あれよあれよという間に鍛えられて
最後の実戦演習で大活躍、気が付いたらパラシュート部隊へ。
見事なまでのコメディ。
最近こういう映画ってないよなあ。
当時はそれなりに洗練されていたんだろうけど、21世紀の今見るとなんとなく垢抜けない。
でも、そういう雰囲気がいい。どことなくノスタルジックで。
笑いたくて見るのではなく、その雰囲気に浸りたくてこの時代の映画を見るのである。
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『ミスター・ロンリー』
ハーモニー・コリン監督の最新作。といっても、2007年か。
音楽は Sun City Girls と Spiritualized のフロントマン、Jason Pierce となっていて
先にサントラだけ買って持っていた。
主人公はマイケル・ジャクソンの物真似で
ストリート・パフォーマンスや老人ホームの慰問で日銭を稼いでいた青年。
ある日、マリリン・モンローのそっくりさんと出会い、
同じようなそっくりさんたちが集まる城のことを聞かされ、そこに加わる。
マリリン・モンローはチャールズ・チャップリンと結婚していて、娘はシャーリー・テンプル。
その他に、マドンナ、サミー・ディヴィス Jr.にリンカーン・・・
天真爛漫な共同生活を送る彼らは芝居小屋を造って村の人たちに芝居を披露しようとするが・・・
その一方で。アフリカの奥地のどこか。
キリスト教の教会が布教活動の一環として飛行機から食べ物を投下する。
尼僧たちが乗り込むのだが、誤って一人飛行機から転がり落ちてしまい、そこで奇跡が起きる。
ヒラヒラの多い尼僧の服がパラシュート替わりになって無傷で着地する。
神の顕現を求めて、次々に空を舞う尼僧たち。
いっけんこのように書くと牧歌的な希望に満ちた作品のように思えるんだけど、実際はその逆。
途方もない絶望に彩られて、何の救いもなかった。
だけど、例によってハーモニー・コリンはセンスとフィーリングを全開に映画を作っていて、
そのことごとくが美しい。
例えば冒頭の場面、『ミスター・ロンリー』が流れていて、
マスクをして小さなバイクに乗ったマイケル・ジャクソンがレースのコースを走る。
それが音楽に合わせてスローモーション。
どういう意味があるのかは言葉では分からないんだけど、感覚的にはとてもしっくりくる。
そして青空をとてつもないスピードで落下する尼僧たち。
このイメージ、どこから思いつくのだろう?
天才のなせる技ってことに尽きてしまうのか。
世の中にはこういう脚本がありえて、こういう映画がありえるんだ、と感心させられる。
人によって好き嫌いありそうだけど、というか否定する人の方が多そうだけど、
他にこういうのない、という観点で僕自身は00年代を代表する名作のひとつだと思う。