『FLY ! FLY ! FLY !』

先日矢口史靖監督の『ハッピーフライト』を見終わった後に
映画のことをあれこれ調べていたら
スピンオフで『FLY ! FLY ! FLY !』という航空業界の裏側を探る
ドキュメンタリー番組のシリーズが作られていたことを知る。
海外旅行の楽しさの何割かは飛行機に乗ってるときにあると思う僕としては
航空機や空港というものに前々から興味があったわけで。
シリーズ最初の3本を見てみた。
どれも思わず周りの人に語りたくなる豆知識の宝庫だった。
http://www.ponycanyon.co.jp/fly/


以下ダイジェストを書きますが、これは絶対映像を見た方がいいです。
特に最初の2つは航空機ファンにはたまりません。

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「飛行機を創る人 ボーイング


世界最大級の旅客機メーカーであるボーイングの工場を見学。
まずはその歴史ということで舞台はワシントン州シアトル。
シアトルというと僕なんかは SUBPOP / グランジだったり、
スターバックスを思い出しますが、実はボーイングの町なんですね。
住民の実に 1/3 がなんらかボーイングの工場で働いているという。


創業者は最初ヨットを作る工場を10ドルで買収するところから初めて
航空機を生産する事業へと乗り出す。
不況の時代には家具を作って乗り切りつつ、第二次大戦へ。
B-29」を生み出し、戦後は「B-52」
アメリカを代表する航空機メーカーへと発展する。


ワシントン州レントンの工場へ。
広い工場の中はなんと組み立て途上の飛行機が一列になって
秒針の動くスピードでゆっくりと動いていた。
並んでいたユニットが順々にはめ込まれていく。
座席の組み込みはわずか16分。いわゆる、流れ生産方式。
これはトヨタに習った「カイカク」「カイゼン」なのだという。
それまでは工場の中に静止した飛行機がギュギュッと並べられ、
あるチームが作業を終えると移動して次のチームが作業・・・、としていた。
部品を抱えて移動するだけで一日の作業の1/4を浪費する。
これをなくしてしまった。
1機作るのに60日かかっていたのが、今や10日!に短縮。


最大級のボーイング747を作るエバレット工場
(東京ドーム8.5個分の大きさで、世界最大の建造物としてギネス認定)
の紹介を経て、最新モデル「787」の披露。
落ち着きを与える青を基調とした、広々とした空間。
窓のサイズが50%大きくなり、中央座席上部になんと手荷物入れがない。
飛行中のきめ細かい気圧、空調、湿度の制御が可能。
この機体の生産の一部を初めて、日本にアウトソーシング
三菱重工業主翼を、川崎重工業が胴体前部を、富士重工業が中央翼を。
愛知県の工場でそれぞれ製造して、専用のコンテナ機でエバレット工場へと運ぶ。

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「飛行機の墓場 モハベ空港」


宇宙基地でもあるモハベ空港は実に東京ドーム285個分の広さ。
砂漠の近くにあるため乾燥していて、古くなった航空機の保管と解体が行われている。
最後1回持ちこたえればよい、例えばタイヤも古いのに履き替えられた状態で
「ラストフライト」を迎えた航空機が解体されるのを待っている。
パイロットだったり、普段は空軍で働いているという整備士たちが
エンジンやレーダーといった大きなものから
「ドレインマスト」「アクチュエーター」といった素人には耳慣れぬ小さなものまで
「再利用可能」なパーツは全て外す。解体に約3週間。
これらパーツは分解検査、修理を経て他の航空会社へと売られる。
機体は2週間かけて破壊され、スクラップ業者へ。
アルミニウムや鉄として海外に売られる。


航空機は安全第一であるため、
全てのパーツについて書類が作られ、何回飛んだのかなど細かく記録が取られる。
そして一定の飛行回数などの限度を越えるとまだ使えるものだとしても廃棄される。
航空機は1年に1度検査を受けて、ライセンスを更新する。
その都度「工場出荷レベル」を保っていなければならず、
人間の体と一緒、中のパーツは何年か後には細胞のように総入れ替えとなる。
最も寿命の長い(?)機体が限度を越えると、まだ十分に飛べるとしても退役となる。


ANAのジャンボジェットが最後のフライトを終えてから2年間、解体を待っていた。
その機体には整備士や CA(キャビン・アテンダント)、パイロットらによる
「ありがとう」「さようなら」「お疲れ様でした」といった寄せ書きが。
格納庫にてお別れパーティーが開かれ、手を振って送り出すのだという。


運のいい機体は破壊されず、モックアップ(実物大の見本)として
航空会社に戻ってきて、
見習い整備士の演習や CA の緊急避難訓練に使われる。

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「空のレストラン 機内食工場」


こちら少し毛色が変わって、ファーストクラス・ビジネスクラス機内食
成田にある「ANAケータリングサービス」の工場。
工場と言ってもベルトコンベアにトレーが並ぶのではなく、どれも手作業。
料亭やヒルトンやセンチュリーといったホテルでの経験を積んだ調理長の下、
洋食、和食、ベーカリーの各エリアで作られた各料理が
ディッシュアップ(盛り付け)のエリアに運ばれ、
さらにミールセット(配膳)のエリアへ。
「○○便エコノミークラス、2名追加で128名に」といった細かい単位で用意される。


やはり安全第一であって、完全防護の割烹着を着て靴の底まで洗浄される。


ANAのファーストクラス・ビジネスクラスはトレイを温めて出すのではなく
数年前から CA がギャレーで盛り付けして提供するようになった。
それを可能にするためにも食材を並べる、ソースをかけるといった手順が
「3STEP」として手際よく行われるように工夫されている。
3ヶ月に1度、 CA の代表と調理長が打ち合わせの場をもって
どういうところに注意して盛り付けるべきかレクチャーを行い、
温める時間は適切かなどの実演指導を行う。
機内食の大きなポイントとして、調理した人のすぐ目の前に食べる人がいないわけで、
それを実際にサービスする人との「連携」がとても大事になってくる。
機内食の企画担当を含めて、3者の相互のフィードバックが重要となる。


ANAは赤坂の高級割烹「津やま」と業務提携を行ったり
フランス料理界の重鎮をアドバイザーに迎えたり。
贅沢な食材をふんだんに使った「フレッシュトリフのバニラアイス和え」
といったメニューは機内食に見えなかった。
いやーファーストクラスなんて乗れるわけがないのだから、
ファーストクラスの機内食が食べられるレストランがあるといいのにと思った。


なお、機内では気圧の関係で人間の味覚が鈍るため、味を強くしているそうだ。


工場で用意された機内食はカートごとにセキュリティシールが貼られ、
搬出に当たってトラックと工場は密閉状態を保たれる。
フライトの2時間前に空港に到着、
1時間で搬入、30分で CA によるチェック、残りの30分で乗客が搭乗。
カウンターでのチェックインが2時間前とされているのは
そこのところの意味もあるのだ、とのこと。