『のらくろ』

先日図書館を訪れたときにたまたま見かけた貼り紙で
田河水泡の杉並時代」という催し物が開催されていると知った。
http://www2.city.suginami.tokyo.jp/library/file/221008norakuro.pdf


場所は杉並区立郷土博物館分館となっていて、
調べてみたら住んでるアパートの目と鼻の先だった。
というか会社の行き帰りに毎日通っている道の途中、脇に逸れたところにあった。
公園の中。10何年荻窪に住んでいて全然知らずにいた。
近いし、無料だし、さっそく今週末にでも行ってみようと思った。


上記チラシのPDFファイルを見ると
のらくろ』を書く前は抽象画を描いていたとか
内弟子が『サザエさん』の長谷川町子であるとかいうことがわかって、
へーそうだったのかと新しい発見。
のらくろ』のあのデフォルメされた、臨場感のない穏やかな絵柄。
近景と遠景が溶け合ったかのような。
あの根っこが抽象画にあると聞くとああ、なるほどと思う。
そして世の中がどれほど大きく変わろうと微動だにしない
軍隊という小集団における”さざなみ”のような群像劇は
家庭という小集団へと引き継がれたわけで。
(戦車や飛行機の登場する戦闘の場面も、
 事件というよりは日常生活のイチ出来事として描かれる。
 『サザエさん』におけるサザエとマスオのパターン化した喧嘩のよう)


小学校の頃、青森県立図書館に毎週土曜通っては
のらくろ』を読んでいたことは以前どこかに書いた。
ハンブルとか鉢巻とか人懐っこいキャラクターが懐かしいねえ。


自分が30代半ばの今になって『のらくろ』について思い返したときに感慨深いのは
戦場で思いがけなく手柄を立てて伍長・軍曹と階級を上がっていく戦時よりも、
戦後の世間の中にポツンと放り込まれて
自分には果たして何が向いているのかと職業を転々とする姿である。
小市民化して最後には喫茶店を開く。奥さんももらう。
戦時中はどんどん出生して中隊長にまでなるのに、
戦争が終わると普通の人(犬?)になって小さな幸福に安らぎを見出す。
孤児であったという出自が平時において後を引く。


子供心にもつくづく、戦争って
独自の価値観に覆われた特異な時空間なんだなあと思った。
(誤解を恐れずに言えば、70年代生まれの僕からすれば”ファンタジー”だった)
逆に、日常生活の秩序というのはいかに揺るがしがたいものなのか。
それがイコール、”平和”ってことになる。


ふと今、僕の人生に大きな影響を与えた漫画は
ドラえもん』もさることながら実は『のらくろ』もかなりかも、と思った。


僕がかつて読んだ布張りの復刻版全集は amazon で4万。
欲しいなあ・・・