横断歩道

オフィスの近くに女子中学校があって、
今日の朝、ああこの子一人ぼっちなんだろうなって子が
ぽつんと歩いているのを見て、切ない気持ちになった。
信号が青になって仲良しグループがワイワイ騒ぎながら横断歩道を渡る。
少し離れたところに立っていたその子はしばらく待ってから1人で渡りだした。
仲間に入れてもらおうと声がかかるのを待っているのに、興味を引くことはない。
そのつらそうな感じを表に出すまいとしてるような。
無表情で。だけどそっと唇をかしめている。


これから、学校へと向かう。階段を上がって教室へと入る。
周りはオハヨーって挨拶を交し合ってるのに、その子に声がかかることはない。
机に座ってじっとしている。ややうつむき加減で。
ノートもシャーペンも何も置かれていない机の、その無機的な模様を見つめる。
それを毎朝来る日も来る日も繰り返してきた。
模様が動き出す。その瞬間、いつもの机に戻っている。
チャイムが鳴る。先生が入ってくる。授業が始まる。教科書が読み上げられる。
うつむいたまま。どんなに我慢しても時間が過ぎていかない。
残酷な秒針はなぶるように足踏みする。
授業が終わる。ささやかな歓声。
周りは連れ立って賑やかに廊下に出る。


体育の時間になる。更衣室でトレパンに着替える。
体育館。バスケットボールを持ったまま1人おろおろとする。
先生に遠くから大きな声で声をかけられる。
嫌々ながら物事が動き始める。パスを出す。パスを出される。
ボールを受け止め損ねて、力なく転がっていく。


放課後。地下鉄に乗って一人家に帰る。つり革につかまって、揺られる。
何も考えたくない。何も思い出したくない。ただ、消えてしまいたい。


夕食のときに、学校はどうだったかと聞かれる。


シャワーを浴びる。体を洗う。何度も洗う。
一人きりの部屋に戻って、机に向かう。
携帯を手に取る。決して鳴ることのない携帯を強く握り締める。
涙が、止まらなくなる。


眠りにつく。
夢を見る。


朝、目が覚めて、いつものように学校へと向かう。
交差点に立つ。
少し離れたところで待つ。少し遅れて、横断歩道を渡る。