福島へ その4

8/14(木)続き。


駅前に出る。廃駅となって駅舎も線路も背の高く伸びた雑草に覆われている。
その向かい側に回るとぐにゃりと押しつぶされて
今にも崩れ落ちそうな建物たちの群れが手付かずで残されている。
海辺の一部以外、土嚢を置くための一部以外、更地にもなっていない。
「(有)藤沢材木店」と書かれた背の高くて厚みの薄い倉庫が4棟、
巨人が蹴り損ねたかのようにくしゃっとよじれている。
その奥のこじんまりとした真新しい住宅は一見きれいなまま残っているようでいて
玄関口が傷跡のように荒らされている。
電柱が途中からポキッと折られて地面に転がっている。


75°以上の角度で折れ曲がり、地面にくっつくすれすれになった家。
よく持ちこたえているもんだとむしろ感心させられる。
瓦礫の群が意思を持ち、ひとつひとつの切れ端が細胞となり、
家として形作らんとしているような。
その裏手に回ると心無い誰かがいたずら書きをしたのか
「人」「人」「人」と赤のスプレーでいたずら書きが。
不気味なメッセージだった。


無人の商店街に入っていく。
建物は無事残っているのに中が泥まみれでメチャクチャになっている。
あるべき位置を全てアトランダムにシャッフルされて
ありえない位置、ありえない角度。
地震津波の力加減でこのような状態が生まれるのか。
デイリーヤマザキの店舗前に置かれた自販機の中で缶がもがいている。
「ミチ美容室」の看板から吊り下げられた時計が斜めになって止まっている。
「2:46」ここは2014年の今も時間が止まったままになっているのだ。
大きな古びた商店は地元の有力者のものなのか
「富岡」と書かれた法被が柱に掛けられている。
居酒屋がいくつかあって、その内のひとつに入った。
薄暗い店内は酒の瓶が乱雑に転がっていた。
真新しい缶がその手前に置かれているのは誰かが弔いのために置いたのか。
大きな蜘蛛が大きな巣を作り、せっせと動き回っている。
津波は3回来たという。2回目がとても大きかった。
1回目を逃れて大丈夫だと思った人が自宅に戻って流されてしまった。
生き残った人たちは避難所に逃れて、
そこからすぐ原発が危ないとさらに遠くの避難所へ。
ここに戻ってくることのなかった人たちがほとんどなのだろう。


駅は立ち入り禁止。ひとつきりのホームが屋根と共に残されている。
屋根から吊り下げられた広告の看板がひっそりと寂しい。
左右真ん中と三本立った電柱の間に張り渡して電線をまとめていたのが
両端の電柱がそれぞれ反対方向に曲がって、
まるで現代アートのモニュメントのよう。
駅前の看板には富岡町の観光案内が。その真下に簡易トイレが4つ並んでいる。
その後ろに部屋ひとつ分の壁が削ぎ落とされた家。
駅前の広場を置くまで行くと駐車場代わりだったのか
大破した車が寄り集まっていた。移動させたのかもしれない。
ガラスが割られ屋根がへこみ、タイヤの空気が抜け、
ナンバープレートは剥がれたのか誰かが持ち去ったのか。
なぜかどれも皆色は白だった。
ゴルフクラブのセットも一揃い、主人に従う犬のように寄り添っていた。


東日本大震災の小さな慰霊碑があった。
横にはポールが立てられ、千羽鶴にカバーがかかっていた。
ペットボトルのお茶に缶コーヒー。花も供えられていた。
後から車で来た40代後半ぐらいの男性二人が
時間をかけて掃除をして線香を上げていた。
時折、車が通りがかって下りて辺りを見渡して写真を撮って帰っていく。
近くに住んでいたのか、遠くなのか。
家族連れや若者たち。


17時近くになって夕暮れ。
車に乗って大熊町のより山寄りのエリアを走る。
大熊高校に設置された線量計を見ると1.121マイクロシーベルト
車内では0.25マイクロシーベルトだった。


富岡町の北の方に検問所があってそこから先は一般人は立入禁止だと聞いて、
そこまで行ってみる。無人の町とはいえ、
その途中で柵が設けられ突然警察官たちが立っているというのは不気味なものだ。
その直前にはスクリーニングのポイントが設けられていた。
気になる人は、衣服に付着した放射性物質を取り除くことができるようになっていた。。
しかし実際には気休めにしかならない。
僕らは検問所を前にしてUターンする。


日が暮れていた。高速道路に乗る。
富岡町の中で場所によっては戻ってきてもよいとなったことと合わせて
高速道路もまた富岡町インターチェンジまで復旧していた。
町を走っていても自動車に出会うことが少ないのと同様、
高速道路もまた利用者は少ない。
いわき市方面へと向かう間、対向車線で富岡町方面へと向かう人たちがいなくもない。
彼らはこんな時間にどこへと向かうのか。


暗くなって郡山に戻ってくる。
郡山からいわきへ、北上して富岡町へ。往復200kmぐらいになったんじゃないか。
福島県の広さを改めて思い知る。


「天ぷら佐久間」に寄って行って夜ごはんを食べる。
予約なしで入って他に待っている人たちはいないものの満席、暫く待つ。
コースにして海老、ウニ海苔巻、帆立、イカ、鮎、鱧、
そら豆、舞茸、とうもろこし、最後に海老と帆立のかき揚げなど。
最初はビールを飲んで、次に福島の酒「田むら」を飲む。


21時過ぎ、ドーミーインにチェックインする。
外に出てコンビニを探し、缶チューハイを買って帰る。
「氷結」の青りんご味を見つける。
混雑している中、夜鳴きそばを食べて風呂に入る。
寝湯や炭酸風呂があってここのドーミーインは充実していた。
2階にはマンガのコーナーまであった。
午前2時頃まで起きている。BSをつける。
岡田元代表監督の視点からワールドカップを振り返るという番組があって、
思わず見入ってしまった。