最初の雪が舞い降りてきた。
ゆっくりと、ゆっくりと、静かに。
目の前をふっと通り過ぎて
白い地面にかき消される。
見上げると次のひとひらが続いていた。
やがて無数の粒子が降り注ぐ。
分厚く重なり合った灰色の雲の隙間から
果てしなく、時間が止まったかのように。
細かな白い綿毛が絡みあって
隣のひとひらとつながりあって。
限りなく落ちてくる。
この世界を灰色に染める。
風はまだなく、雪はただ重力と冷たい空気に従う。
僕はそっと手を伸ばし手袋の上にそれを受け止めようとする。
白い綿毛がわずかに転がって掌から零れ落ちる。
また次のひとひらが取って代わる。
人気のない公園。
娘が僕の真似をして毛糸の手袋を前に差し出す。
毎日毎日繰り返し見つめているのに
いつだって初めてのように目を細めている。
僕にそれを見せようとするが
振り向いて僕に近づこうとしているうちに
いつの間にか消えてしまう。
消してしまったのが僕であるかのように、プイとまた前に向き直る。
僕はそんな娘をずっと見つめている。
飽きてしまった娘が僕の袖を引っ張る。
無言で公園を後にする。
その頃には灰色だった世界が白く生まれ変わっている。
自動車が通りすぎていく。
交差点で止まって、寒さに震えている。
僕は娘の手を取る。
信号が青になるのを待つ。