『百物語』

百物語 (新潮文庫)

百物語 (新潮文庫)


先日の『百日紅』に引き続き、杉浦日向子『百物語』を読む。
その名の通り、江戸時代の怪異譚を99話語っていく。
最後の100話は語られてはならない。


其の八
夏の暑さにやられたのか役所勤めの男が帰ってくると家人が皆、
牛馬蛙と異形の姿になっていた。寝込んでしまうがあくる日けろりとする。
友人に聞くと、 昨日の朝見かけた男は鬼の子を背負っていたという。


其の二十九
大雪の中、廃寺の門前に見知らぬ美しい女が。見かけた男が家につれて帰る。
炉に火をくべても近寄らず、鍋を作っても食べようとしない。
男が怒ると女は風呂に入ったが、上がってこない。湯船に櫛だけが浮かんでいた。


其の六十五
越後の酒問屋に乞われて茶碗を納めると、旦那は掛け軸に描かれた妻に話しかけた。
二十年後にまた茶碗を納めると絵の中の妻が年老いている。
自分だけが老いていくのは忍びないので少しずつ書き加えているのだという。


など。必ずしも天狗や亡霊、妖怪変化の話ばかりではなく
少し不思議なだけの話というのも多い。
それを淡々と数ページずつ描いていく。
百日紅』は葛飾北斎とその娘といった主人公がいることで
人情もの的な連続ドラマを見ていくような感覚があったが、
こちらにはもはや直接には関連のない「出来事」があるだけ。
物語の極北を感じる。
漫画家としての野心とでも言うべき生臭いものは消えうせ、
人知れぬものが全編を覆っている。


柳田國男遠野物語』や夏目漱石夢十夜』の間をつなぐのが
この作品かと思ったが、いや、違う。
杉浦日向子『百物語』は同等の存在感を持つ。