夏は寝室の窓を開けて網戸にして寝ている。
明け方、4時過ぎには明るくなっている。
たまたま目を覚ましたとき、外から聞こえてくるかすかな物音を何とはなしに聞く。
東京の外れの、住宅地の物音。
車の往来もなく辺りはまだ寝静まっている。
明け方の白い空、白い音。
この界隈は農地は多くても木々には乏しいので鳥たちが集まるということはなく、
鳥の鳴き声がするということはめったにない。
この夜明けの物音も、生活や生命に結びつく音が聞こえてくることはほとんどない。
住宅地というひとつの大きな生き物が横たわり、眠っている。
その吐息は明け方の何もない、まっさらな空間に吸い込まれている。
そんなことを思う。
ふと気づくとどこから発しているのか、遠くからなのか、ゴーッという音が続いている。
僕だけが聞こえる耳鳴りなのか。
少し行った先の通りを深夜走り続けたトラックが無数に通り過ぎていく音なのか。
環八につながっている。
東京の大動脈を大型トラックの群れが合流しては分かれて行く様を思い浮かべる。
こんな時間にも大勢のドライバーが徹夜で運転している。
本当ならこの時間にも外を歩いていて、
例えばその少し行った先の通りにあるコンビニに向かう人がいるとか。
ひと気のない時間帯をジョギングするのが好きな人とか。
いるはずなのにその足音は聞こえてこない。
携帯で会話する人もいない。
車の存在は感じるが、人の存在は感じられない。
もしかしてトラックたちも無人で走っているのか。
一瞬そんなことを考えるが、いやいや、そんなわけはないとすぐ打ち消す。
布団の中で丸めた足を伸ばしながら。
この明け方の音はいつ、どの瞬間から生命の音、生活の音に満ち溢れるようになるのか。
気がつくとそのときは既に失われている。
僕が起き上がったときがそうなのか。耳を澄ますことを忘れたそのときが。
空の色も変わっている。
無数の家が無数の音を内側から発して、始発が走り始めて、
もしかしたらコンビニのシフトも交代して。
朝が訪れて。