先週買ったCD #17:2021/02/01-2021/02/07

2021/02/01: www.hmv.co.jp
The Stalin 「豚に真珠 Live at 横浜国立大学 1980.11」 \2420
Fine Young Cannibals 「Fine Young Cannibals 35Year Anniversary Edition」 \2750
Fine Young Cannibals 「The Raw & The Cooked Anniversary Edition」 \2750
PJ Harvey 「Is This Desire? - Demos」 \1897
Sigur Ros 「Odin's Raven Magic」 \1559
Matt Bianco 「Whose Side Are You On 2CD Deluxe Edition」 \1890
(V.A.) 「Nicolas Jaar presents Trust」 \570
 
2020/02/04: diskunion.net
Living Colour 「Live from CBGB's 」 \1100
 
2020/02/06: diskunion.net
大森靖子 「TOKYO BLACK HALL」 \1200
The Birthday Party 「Munity / The Bad Seed EP」 \1067
 
2020/02/06: amazon.co.jp
Aswasd「Complete BBC Sessions」 \1827<
 
2020/02/07: ヤフオク
(V.A.) 「ミュージック・ライフ スーパー・ヒッツ・コレクション」 \980

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Fine Young Cannibals 「The Raw & The Cooked Anniversary Edition」
 
2枚組デラックス・エディションのリマスター盤を買い逃しては
数年後、十数年後、プレミアの付いたのを探し回って
なけなしの金をはたいて買う、ということを繰り返してますが。
たまには逆に、ちょうど出たばかりのを見つけて首尾よく入手することもある。
今回の Fine Young Cannibals がそう。
80年代後半、アルバムを2作出して解散。
その両方が国内盤デラックス・エディションで出たばかりなのを知って合わせて購入。
久々に聞きたくなって、そういやリマスターされてないんだろうかと
調べたらちょうど、というタイミングだった。
 
スカ、2トーン系のバンド、The Beatの元メンバーを中心に結成された3人組。
イギリスのグループであるが、
1989年発表のこの2作目「The Raw & The Cooked」に収録されたシングル
”She Drives Me Crazy” ”Good Thing” がその前年、立て続けに全米No.1へ。
”She Drives Me Crazy” はCMでも使われたので知っている人が多いと思う。
 
なんか不思議な音なんですよね。
ひずんでるけど軽快なギターに塩枯れた声がなぜか
コクがあるのにキレがあるポップミュージックとなる。
スカスカなんだけど、因数分解された各楽器のフレーズが
空間のしかるべき位置に正確に配置されているような。
80年代を代表する名盤 Scritti Politti 「Cupid & Psyche '85」で確立された、
当時の現代思想用語で言えば
ロックにレゲエと様々なジャンルの音を”ブリコラージュ”(手仕事で組み合わせる)、
脱構築”(有機的に解体して新たな意味を生み出す)
してポップミュージックをつくる、
あの手法をさらに推し進めてソウル寄りに近づいた、というか。
 
でもたぶんそんな難しい話ではなく。
解説を読んで初めて知ったのですが、「The Raw & The Cooked」にて
彼らはプロデューサーとしてかのプリンスを希望、
しかし実現せず、側近の一人デイヴィッド・Zの参加を得られた。
彼はプリンスの ”Kiss” のアレンジを手掛けてるんですね。
そうか、あのスカスカだけど適材適所な音の元ネタは ”Kiss” だったか!
 
デラックス・エディションの大半は様々なダンスミックス。
クレジットをよく見ると、
・90年代初めにBjork ともコラボしていたネリー・フーパ
・今も現役のディスコ番長ディミトリ・フロム・パリ
・80年代ニューヨークのソウル・ディスコの帝王アーサー・ベイカ
・活動初期には尖ったポストパンクを演奏していた Killing Joke のユース
De La Soul などヒップホップ系のプロデュースで知られるプリンス・ポール
などなど、メンツがすごい。
80年代から90年代への橋渡し役でもあったんだな。
 
大ヒットを飛ばすも欲はなく、
周りから次のヒットを期待されても他にやりたいことがあるからと潔く解散。
2枚の名盤を残して彼らは80年代後半を颯爽と駆け抜けていった。
 
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Matt Bianco 「Whose Side Are You On 2CD Deluxe Edition」
 
昨年の夏、たまたまラジオで聞いた曲がかっこよかったと妻が。
車のCMにも使われていた、というので調べてみたら
Matt Bianco ”What A Fool Believes” のことで、Doobie Brothers のカバーだった。
CM は日産のティアナ。2003年。元々の発表は1991年。
ちょっと聞いてみたくなって収録されているアルバム
「Samba In Your Casa」の国内盤を購入。
amazon では少し高くなっていたけど、DiskUnion では1,000円で買えた。
1994年の次作「Another Time Another Place」は
amazon で国内盤帯付きで1円だった。それもついでに買ってみた。
ラテン系の音を取り入れた、90年代を代表するおしゃれな音楽のひとつ。
その頃から聞いている人には懐かしいだろうけど、
2020年の今初めて聞くとなかなか時代を感じさせる音だった。
消費されていくポップミュージックの典型、と思った。
 
とはいえ、なんかどこか気になる存在でもあって。
1984年の1作目「Whose Side Are You On」(当時の邦題は「探偵物語」)
はヴォーカルにあのバーシアが参加してるんですよね。
ソロで有名になる前の。
残念ながら Matt Bianco とのコラボはこの1作のみ。
バーシアは今も現役で、2015年の Billboard Live Tokyo での来日公演を妻と見に行った。
さすがにそれなりに年を取ってましたが……
 
バーシアとの化学反応もあるのか
(トンネルの中で撮影された、バーシアを真ん中に挟んで男性二人、
 というモノクロのジャケットが今見てもかっこいい)
このアルバムは彼らのキャリアの中でも特別な位置づけにあるように感じられる。
1980年代半ばのイギリス。
ファンカラティーナの時代。つまり、ラテン風のファンク。
デイヴ・ブルーベックの曲名から取られた Blue Rond A La Turk や 
Weekend その解散後の Worlking Week といった辺りが代表格か。
というか Blue Rond A La Turk のメンバーだったマーク・ライリーが独立して
Matt Bianco を結成するんですよね。
 
この1作目もジャズにボサノヴァ、サンバ、サルサといった
ラテン系の音楽をベースにしていて、
それまでのキャリアの試行錯誤があったからか、かなり洗練されている。
90年代以後の音とは違ってシンセや打ち込みを使わずに
生音の演奏だというのが、時代を経て生き残る力を与えているように思う。
あと、ファンカラティーナの人たちは根っこにUKパンクがあるというのが大きいか。
多くの若者たちがパンク革命でのぼせ上って、
それまでのロックというものが一度リセットされたところに
乾いた大地が雨を求めるようにジャズやラテン音楽を吸収していった。
 
やっぱ冒頭の表題曲”Whose Side Are You On”かな。
あと、バーシアにとっても名刺代わりになった”Half A Minute”
デラックスエディションはこの時代らしく、
7インチや12インチのミックス違いや Extended Version ばかり。
2枚目の最後、”Half A Minute” 2016年の新録が。バーシアの声。
ブックレットを読んだらオリジナルメンバー3人が再会しての録音のようだ。
1作目を録音したときに参加したミュージシャンのうち、2人が亡くなっている。
その追悼の意を込めて、とあった。
 
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The Stalin 「豚に真珠 Live at 横浜国立大学 1980.11」
 
遠藤ミチロウが惜しいことに、一昨年亡くなった。
前後して初期シングルの編集盤が「Stalinism Naked」として再登場。
昨年は生前絶対実現しなかった幻の1作目「trash」が遂に再発された。
そしてこの初期ライヴ音源も突然出てきた。
これから先、もう少し未発表音源が発掘されるのかもしれない。
80年代後半のビデオスターリンの頃も聞いてみたいが、再発は難しいのだろうか。
権利関係が厄介なことになってそうな気がする。
そもそも売れないか。
 
昨年「trash」を初めて聞いて、
後半(LPではB面)のライヴ音源の肉体的な生々しさにやられたと思ったものの
前半のスタジオ録音は単調かなと。結局 iPhone からは外した。
今回フルのライヴアルバムなので、おお、これはいいとほくそ笑む。
全10曲で23分。音は荒く、あっという間に終わってしまう。
 
今、何の予備知識も先入観もなく聞いて、若い人は何を思うだろう。
といった後の世代のバンドを聞いてきた耳からすれば
かっこいい、と高く評価する人は皆無、
この音がかつて日本を代表するパンクバンドの音だった、
と言われても首を傾げるのではないか。
歌われることも肉、脳みそ、豚、電動こけし、金玉、便所と下品なだけ。
聞き取れた限りではチンバ、オマンコといった放送禁止用語も普通に入ってくる。
 
実際、この音に目新しいものはない。
フォロワーたちに模倣されつくしたという以前の話。
1980年に結成、自主製作の「trash」は1981年。
その時点で既に、Sex Pistols とその周辺のパンクバンドは役目を終えていた。
1978年や1979年に。
ジョン・ライドンではなく、シド・ヴィシャスの方のパンク。
 
前半の演奏はどこか固い。
それが後半、”解剖室” ”アーチスト” と進んでいくうちに
同じフレーズを繰り返すにしてもねちっこくなっていく。
ギターも制御不能なフレーズをまき散らす。
これはかっこいい、と思うや否や曲は終わってしまう。
長くは続かない、それがパンクの宿命。
 
このライヴアルバムで一番かっこいいのは
ジャケットに配されたオレンジや青に染まった
ステージの生々しい写真ということになるか。
ボーカルの遠藤ミチロウとドラムは上半身裸。
ジャケットの裏では初期メンバーそれぞれが叫んでいる。
しかも遠藤ミチロウは拡声器を手にしている。
何かやばりことが始まりそうで、実際それが起こっている。
そんな瞬間を切り取っている。
 
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(V.A.) 「ミュージック・ライフ スーパー・ヒッツ・コレクション」
 
僕が洋楽を聞き始めた80年代末、
洋楽の雑誌といえば『ミュージックライフ』の主流系か
『Rock'in on』『Music Magazine』のマニア系であった。
ミュージックライフの扱う売れ線のポップやロックに興味はなく、
Music Magazineはツウ過ぎた。
最初に買ったロックのディスクガイドが渋谷陽一だったこともあり、
一番しっくり来た Rock'in onを僕は選ぶ。
イギリスのマンチェスターアメリカのグランジの時代。
疾風怒濤の、世の中他にロックはないんじゃないか、というぐらいの。
Rock'in onと共に僕もどっぷりとはまることになった。
とはいえミュージックライフ系の方たち、
水上はるこ、東郷かおる子大貫憲章といった名前はあちこちで目に触れていた。
Rockin on よりも早く、ビートルズ周りの本で出会っていた。
 
その『ミュージックライフ』が創刊40周年記念ということで
レコード会社各社から記念のコンピレーションが発売された。
1990年のこと。僕もちょうど洋楽を聞き始めたばかり、
マンチェスターグランジにのめりこむ前、
たくさんのアーティスト、たくさんの名曲に出会って吸収しまくりたい頃だった。
そんな時にこのシリーズは僕にとって最良の先生だった。
ほんと、多くを学ばせてもらった。
これ以上の洋楽のコンピはないと今でも思う。
 
12社、計12枚が発売された。
CBSソニー / エピック・ソニー・レコード / ワーナー・パイオニア / 東芝EMI / アトランティック / 
WEA MUSIC / A&M / フォノグラム / ポリドール / ヴァージン / RCA / テイチク
国内のレコード会社とはいえ、それぞれ海外のレコード会社の日本法人や
海外のレコード会社と契約した日本のレコード会社となるか。
その時点での所属アーティスト、というよりも
発売当時国内販売の契約を結んでいて1990年時点も権利を持っている曲が選ばれた、
ということになるのだろうか。
 
誰でも知っている大御所の代表曲から、知る人ぞ知る一発屋までが一枚に並ぶ。
例えば今回入手したテイチクの場合、
01. Del Shannon "Runaway"(悲しき街角)
02. Dion ”Runaround”(浮気なスー) 
03. The Kinks ”You Really Got Me”
04. The Searchers ”Love Portion No.9”
05. The Honeycombs ”have I The Right?”
06. The Yardbirds ”For Your Love”
07. The McCoys ”Come On Let's Go”
08. The Lovin' Spoonful ”Summer In The City”
09. Small Faces ”Itchycoo Park”
10. The Zombies ”I love You”(好きさ 好きさ 好きさ)
11. Procol Harum ”A White Shade Of Pale”(青い影)
12. The Lemon Pipers ”Green Tambourine”
13. 1910 Fruitgum Co. ”Simon Says
14. Deep Purple ”Hush”
15. The Nice ”America”
16. Joe Cocker ”With A Little Help From My Friends”(心の友)
17. Humble Pie ”Natural Born Bugie”(あいつ)
18. Boots Walker ”Geraldine”
19. Lou Christie ”She Sold Me Magic”(魔法)
20. Mungo Jerry ”In The Summertime”
21. T.Rex ”Get It On”
22. Uriah Heep ”Look At Yourself”(対自核)
23. The Damned ”Love Song”
 
ロックに詳しい人ほど、なんじゃこれ!? となりそうな。
懐メロの”青い影”と、The Damned のパンクナンバーが並ぶ。
The Lemon Pipers / 1910 Fruitgum Co. のブッダレコードのバブルガム・ポップと
Uriah Heep のハードロックが並ぶ。
(ここでの Deep Purple はハイウェイスター化する前の初期サイケロック時代)
”Love Portion No.9” はサザンが「稲村ジェーン」のサントラでカバーした。
後に Emerson, Lake & Palmer を結成するキース・エマーソンの前身バンド
The Nice は『ウエストサイド物語』の ”America”をプログレ風にカバー。
Joe Cocker の曲はもちろん、ビートルズの。
ああ、語りだすときりがない。
The McCoys / Boots Walker / Lou Christie といった辺りはいまだによくわからず、
他に名前を見かけることもなく、
そこに The Kinks / The Lovin' Spoonful / Small Faces / Humble Pie / T.Rex
大御所の代表曲が挟まっていく。
今聞いても痛快なコンピ。
名曲、という意味ではどれも同じぐらい名曲。
一発屋のものほど、ポップで愛おしい。
 
他、11枚も基本こんな感じで痒いところに手が届きまくり。
CBSソニー / ワーナー・パイオニア / 東芝EMI をよく聞いたなー。
ヴァージンは濃厚にレーベルの色が出てて、秀逸なレーベル・サンプラーでした。
僕は高校時代、青森市レンタルCD屋で借りてテープにダビングした。
もちろん1軒で全部揃ってるということはなかったのであちこちで探して。
しかもお金がないので小遣いをもらっては借りてで数か月かかった。
10年ぐらい前から中古で安く見かけるたびに買い集めて、
一昨年から本腰入れて探す。
しかし、こういう古いのは amazon だと画像無し。
中古で投げ売りされているものは必ずと言っていいほど帯がない。
ヤフオクにもなかなか出てこない。
今回のテイチクが11枚目。最後残った A&M はいつになることやら……
 
なお、その後業界の再編成が進んで、
上記レコード会社の海外での本家は以下のグループ傘下にある。
いくつかは名称も変わっている。
恐らくこういうことになる。
ワーナー・ミュージック:アトランティック、WEA MUSIC、ワーナー・パイオニア
ユニバーサル・ミュージック:A&M、ポリドール、フォノグラム
※ユニバーサルとワーナーの流れについてはここでも何回か言及した
『誰が音楽をタダにした?』を読むとわかりやすい。
 
この中で、テイチクがよくわからず。
Wikipedia を見るとパナソニックと提携、その関係でビクター参加へ、
しかしケンウッドに売却とめまぐるしい。
どこの海外のレコード会社と契約していたのか。
このコンピの裏ジャケットを見てみると
海外の様々な小さい?レコード会社からのライセンス供与を受けて製作していることがわかる。
もしかしてこのアルバムは11社の大手レコード会社に対する、
その他全般の受け皿だったのかもしれない。
なのでアルバムタイトルもこれだけレコード会社名ではなく、
「Super Hits Collection」となっている。
もしそうなら、このテイチク篇はかなり貴重ということになるが……
(テイチクの国内で契約しているアーティストをサイトで見てみると、ア行だと例えば、
 つかみどころがない。うーむ)
 
これだけ業界再編が進んでややこしいことになってしまった今、
こういうレコード会社別の洋楽コンピをいっせいに出すことは難しいと思われる。
出すとしても商品の位置づけを明確にするためにジャンルや時代が絞られているだろう。
そもそものミュージックライフも1998年に廃刊となってしまった。
Rockin'on もこういうの出してみるとよいと思うのだが。