先週買ったCD #40:2021/07/12-2021/07/18

2021/07/12: tower.jp
Tal Farlow 「This Is Tal Farlow」 (\1980)
タワレコのポイントで
 
2021/07/12: www.hmv.co.jp
Pre-School 「Peace Pact」 \330
 
2021/07/13: diskunion.net
Tortoise 「Rhythms, Resolutions & Clusters」 \480
 
2021/07/18: www.amazon.co.jp
Earl "China" Smith 「Dub It!」 \2295
 
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Tortoise 「Rhythms, Resolutions & Clusters」
 
21世紀に入るか入らないか、といった辺りから
音響系・音響派と呼ばれるジャンルが台頭した。
その一番の特徴は
レコーディングスタジオそのものを楽器のひとつとして捉える、
エディットする、という姿勢にあると思う。
(その意味では一番のルーツはダブか)
このとき、この場所で、この人たちと出会うことで鳴り響く音を大切にする。
ではアコースティックな音が主体なかというと違う。
レコーディングスタジオはリアルな空間だけとは限らない。
このジャンルの確立にあたって『ProTools』といったソフトウェアで
音楽が編集できるようなったということが大きい、とされる。
アナログな演奏とコンピュータによる演奏の区別はせず、
どちらも音としては優劣はなく、
その曲の意図や構造によりふさわしい方を選んで組み合わせていく。
 
そこではどんな音が鳴っているか? 鳴り響いているか?
自らの生み出す音に対して自覚的になって
独特な光や影のテクスチャーを織りなすアーティストが音響系・音響派なのだと思う。
ポスト・ロックと何が違うのか、
どこからどこまでを音響系・音響派と指すのかが難しいんだけど
全世界的に広がって
日本だと ROVO であるとか、アイスランドSigur Ros であるとか。
アルゼンチン音響派という呼び方も日本では生まれて
フアナ・モリーナとかアレハンドロ・フラノフとか。
アメリカだと Tortoise / Sea and Cake / Gastr Del Sol 辺りが老舗とされるだろう。
この3つのバンドは中心人物のジョン・マッケンタイアを中心に
メンバーも重なっている。
 
僕も音響系・音響派を始めて意識したのは Tortoise だった。
今はなき六本木の WAVE で特集されていた。
社会人一年目だった1999年、新人研修が4月の上旬に広尾で行われて、
金曜の夜、せっかくだからと帰りに六本木に寄ったときのことだ。
何枚かのアルバムが山積みになっていた。
1)1作目のセルフタイトル(1994)
2)今回入手した1作目のリミックス集「Rhythms, Resolutions & Clusters」(1995)
3)1)2)を中心に初期の楽曲から選んだ日本独自の編集盤
  「A Digest Compendium of the Tortoise's World」(1995)
4)2作目の「Millions Now Living Never Die」(1996)
5)2作目のリミックス集Tortoise Remixed」(1996)
6)3作目の「TNT」(1998)
だったと思う。「TNT」の国内盤がこの頃発売されたんじゃないか。
あるいは傑作だと長らく話題になっていたか。
 
このとき僕は初期のベスト盤だからと
3)「A Digest Compendium of the Tortoise's World」を買うことにした。
アパートに戻ってさっそくCDトレイに乗せる。
真夜中のキッチンやリビングから聞こえてくるような音。
ディープなダブのように隙間が多く、けだるく、なのにクール。
海の向こうにはこんなかっこいい音があるんだ、とびっくりした。
1)のオリジナルの録音とそれらに対する2)のリミックスが
シームレスにつながっている。一聴して区別がつかない。
もちろん、リミックスはダンスフロア用ではない。
別の視点からの再構築としてのリミックスだった。
 
このとき、すぐまた WAVE に行けばよかったかもしれない。
後日銀座数寄屋橋にあった HMVTortoise を探した時に
1)を見つけて買った。
その後、どんなに探しても
2)「Rhythms, Resolutions & Clusters」は見つからなかった。
amazon にもヤフオクにも出品されなかった。
(さすがに discogs には出ていたが、手間を考えると二の足を踏んだ
今回ようやく入手できたが、22年越しということになるか。
 
実際のところ入手できなくて困る、ということはない。
特に、2006年に「A Lazarus Taxson」という
それまでの活動を振り返るボックスセットが発売されたとき、
その3枚目が丸々「Rhythms, Resolutions & Clusters」に充てられていた。
(正確には「Rhythms, Resolutions & Clusters」の6曲+もう1曲収録されている
「A Digest Compendium of the Tortoise's World」も
2)の全6曲のうち5曲が選ばれている。
 
それでも、コレクターズ・アイテムとして僕は入手しておきたかった。
Tortoise 最良の時期の記録として、敬意を表したかった。
「A Lazarus Taxson」が出たからすぐ中古が出回るかなと思いきや、
そんなことはなかった。
DiskUnion では今回、480円。
めったに出回らない珍品であるのに価格はたったこれほどか。
感慨深い思いをした。
 
CDプレーヤーにセットしてみて驚いた。
全6曲が1曲につなげられて収録されてるんですね。
プリンスの「Love Sexy」のように。
飛ばして次の曲を、とできない。これはなかなかめんどくさい。
やはり「A Lazarus Taxson」か
A Digest Compendium of the Tortoise's World」を持っていれば
それでよかったか……
いや、柔らかめの段ボールのような素材の紙ジャケット
開くとモノクロのメンバーの写真があしらわれているのがかっこいい。
まあ結局はコレクターズ・アイテムでしかないんだけど……
 
なお、リミックスを行っているのは
当時メンバーだったバンディ・K・ブラウン、
リズ・フェア「Exile in Guyville」や The Sea and Cake の1作目の
プロデューサーだったブラッド・ウッドなど。
 
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Pre-School 「Peace Pact」
 
UKロック、特に blur に影響されたとされるギター・ポップのバンド。
90年代半ばに結成、インディーズでアルバムを1枚出して
1998年にメジャーデビュー。2003年に解散。
その間、ライヴアルバムを入れて9枚のアルバムを発表している。
ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムの男性4人とキーボードの女性1人。
今時のナヨナヨしてるけどオシャレな文系男子・女子という感じだった。
 
歌詞のほとんどが、キーボードの eco の書く英語。
ポップでカラフルなキーボードにグランジ直系の荒れたギター
という組み合わせが特徴的。
ライヴを見に行くことはなかったが、
ボーカルの大和田晃はバクちゃんと呼ばれ、
引っ込み思案な彼は客席に背を向けて歌っていたという。
どこかギクシャクしたバンドサウンド
この世の中に対するなんとなくの違和感を表すかのようだった。
今、Wikipedia を見てみたら男性4人と僕は同い年だった。
 
初期のギター・ポップから後期はエレクトロニカへと音楽性を変えていく。
解散後、大和田晃と eco はユニットを組んで音楽活動を続けたが、
残りの3人は別の業界に転身している。
 
Rockin'on JAPAN にインタビューが載っていると読んで、
新作がディスクレビューされていると買って。
リアルタイムに聞いていた時は単なる1リスナーだった。
 
その後、ひょんなことから僕はメンバーの二人と
ものすごく細いところでつながりを持つことになる。
とはいってもお互いに面識はない。
僕は相変わらずリスナーのまま。
 
とあるモバイルコンテンツ大手が謎解きゲームを出すことになって
以前僕が関わっていた編集学校が協力、僕はシナリオを書く担当となった。
最初数か月はあーでもないこーでもないと企画を練り直し、
方向性が固まってからは全10章を毎週1章ずつ土日に書くという生活を送った。
架空の世界を舞台にした冒険もの。仲間と出会い、最後の敵を倒す。
それまでの自分の中になかったものを構築して文章にしていく。
完成させた僕はそれまでの自分から二段も三段も成長したように感じた。
 
しかし、出来上がったシナリオは評判がよくなかった。
なのに力尽きた僕はイチからまた書き直していくということができず、
時間切れとなりそのまま進んでしまった。
アプリのリリースにあたって鳴り物入りで発表されて
僕もそのイベント会場にこっそり入れてもらったが、
いくつかのネット記事で取り上げられたもののそれ以上はたいして話題にはならず、
ヒットすることなくやがて消えてしまった。
その一番の原因は僕のシナリオだと思う。
いろんな人に対して申し訳なく思った。
この一連の出来事で僕は多くのことを学んだ。
 
このとき僕は裏方としてシナリオを提出するだけでよかったんだけど、
可能なときには何回か僕も製作の打ち合わせに同席してみた。
自分の書いた登場人物がキャラクターデザインされたときや
僕の頭の中にしかなかった物語の世界が地図になったときには
すげー! と心の中で興奮した。
そして BGM は、となったとき、
Pre-School の大和田さんにお願いすることになりましたと報告が。
ええー! もっとすげー!! 
打ち合わせに出席されることはなかったけど。
しかしなんで、大和田さんが?
僕は深く考えずにいた。なんかつながりがあったのだろう。
食べていくためにいろんな仕事をしているのだろう。
 
もう何年も前のこと。
時々このゲームのことを思い出した。
最近になってまた思い出した時、なんとはなしに Pre-School を検索した。
あることに気づいた。
あれ? あのときの会社の担当の方、名前、……さんだよな、
Pre-School のメンバーだったんじゃないか?
打ち合わせの時に「シナリオ担当の岡村さんです」と紹介されて、
一度ぐらいはお会いしていると思う。
フルネームで確認する。
いや、絶対そうだ……
だから、大和田さんを引っ張ってきたんだ。
 
創立何周年という記念事業としてリリースされるアプリだった。
その責任者として大変なことばかりだったろう。
なのに僕はその足を思いっきり引っ張っていた。
誰よりもこの人に対して申し訳ないことをした。
 
Pre-School の1作目を持っていなかったので
HMV のサイトで中古で買った。330円だった。
カラフルでガムシャラで、音がとてもキラキラしている。
それが今になってはとても切ない。
メジャーデビューのアルバム。
彼らも世界を変えるぐらいの気持ちで作っていただろう。
その後どんな人生を歩むかなんて考えてもみなかっただろう。