高円寺でフラメンコ

21日の春分の日、熊本でフラメンコの踊り手として活動している
という妻の友人が高円寺のステージに立つというので見に行った。
熊本県山鹿市の芝居小屋「八千代座」でフラメンコの公演を行い、
それが好評だったので東京でも、となったようだ。
場所は高円寺南口の商店街を少し外れたところにあるタブラオ「エスペランサ」
タブラオとは酒場やレストランの一角にフラメンコを踊る床を用意した場所。
 
北口の商店街を歩いて昔の市場のような場所を見つけて
「くじら」という店でスパイシーなカレーを食べた後で南口へ。
アーケードの商店街を歩いていると「街録」の収録をやっていて
出演者を募集していた。番組を再開したんだな。
アーケードから離れて飲み屋の集まる路地へ。
エスペランサ」はその一角にあった。
縦に細長い造りで二階建て、奥がステージとなる。
そこには椅子が4つ、無言で並んでいる。
それが何とも本場っぽい。
 
このステージに向き合うように客席が設えられている。
タパスとワンドリンク付き。
チーズと生ハム、オリーヴなど。
14時開演で30分前には着いて、結局夫婦ともども追加で3杯ずつ飲んでしまった。
 
ギター、カンテ(唄)、パルマ(手拍子)、踊りてが女性3人、男性が1人。
1曲目は琵琶をバックに和服で踊った。
今回の主催の永田さんによる
「日本に恋した、フラメンコ」という企画で、チラシによれば
47都道府県の名所で和装でフラメンコ、総勢770名が踊ったという。
youtube で探すと、メイキングの画像もたくさん見つかる。
地元のフラメンコ教室やスタジオと提携して全国各地の踊り手と踊る。
子供もお年寄りもいる。
熊本は熊本城公園で、青森は葦毛崎展望台で行ったようだ。
 
琵琶による平家物語のさわりの部分があった後で
2曲目からは本来の衣装に戻って1人ずつ踊る。
この「エスペランサ」は元の店主が亡くなって、店を閉めるところだったのを
今回のパルマを担当した若者が立ち上がり、クラウドファンディング
改装、再オープンさせたのだという。
とにかく音がいい。
声、ギター、手拍子、足踏みがよく響く。心に響く。
壁の反響がよく、豊かな音に聞こえる。それだけでやられてしまう。
人間の声や身体から出す音こそが最高の楽器なのだなと知る。
踊り手たちもカスタネットをつけたり、スカートの裾を巻き上げたりしない。
ああ、本場のフラメンコってこうなんだな。
今から10年以上前、バルセロナで見たことがあったけど
あれは今思うと観光客向けの当たり障りないものだったんだな。
 
3番目に踊ったのがパルマの若者、「エスペランサ」の店長の母という方で。
指先の動きのひとつひとつがなまめかしいのに気品に溢れている。
悲哀、エレジーというものを全身で表していた。
4番目の男性、永田さんはステッキを手に足踏み、
構成のほとんどがそれだけなのに、上半身の動きはなかなか見せないのに、
なのに相当な凄味があった。踊る、見せる、という意思。
身体から立てる音のひとつひとつが鋭く、重い。
フラメンコは虐げられ、社会の底辺を生きるしかなかったジプシーが
汚れ仕事で働いて週末、場末の酒場で踊ったもの。
『サタデー・ナイト・フィーヴァー』ってそういうことだったよなあとか
ヒップホップ黎明期のブロンクスで貧しい黒人の若者たちが
衝動に駆られてやむにやまれず生みだしたブレイクダンス
それに通じるものがあるのではないか。
時代や地域で現れ方が変わったというだけ。
 
思いがけずすごいものを見てしまった。
自分はこの先、この日見たもの以上に
素晴らしいフラメンコに出会うことはないのでは、と思う。
スペイン南部、セビリアにでも行かない限り。