大地の芸術祭2回目(その3)

10/03(日)のこと。
 
7時までぐっすり寝ている。
1階の風呂に入りに行く。他に誰もいない。
部屋に戻る。妻が起きて露天風呂に入りに行く。
その間、穂村弘『もしもし。運命の人ですか』を読み終える。
 
8時、2階の昨晩と同じ部屋で朝食。
朝食のラインナップも前回とほぼ同じ。でもその定番がいい。
ドレッシングをかけた野菜を下に敷いた温泉卵であるとか。
「みらい納豆」は今回も買っていくことにする。
ご飯をお代わりして朝から腹いっぱいになる。
 
食べ終えてまた温泉に入りにいく。これが最後。
出てきて荷物をまとめて9時、チェックアウト。
その間、妻は向かいの土産物屋に笹団子を買いに行く。
 
妻が車を出す。
この日も近場を回ることにした。
『「森の学校」キョロロ。』とその隣の美人林と。
この日もまた晴れ。というか土曜より暑くなるようだ。
外は刈り終えた田んぼ。その向こうの山々。窓を開けて走る。
 
『「森の学校」キョロロ。』の名前は9月と今回の滞在で何回も目にしていた。
前回訪れた清津倉庫美術館など廃校がギャラリーとして再利用されているケースが多かったので
ここもそうかと思いきや、違った。
新しくつくられた施設だった。正式名称は「十日町市里山科学館」という。
わざと赤錆びた金属を壁に用い、地上5階分ぐらいの高さのある展望台があった。
森の入り口にあって、建物の前面で稲を干していた。
人間と同じ大きさになるまで拡大された色鮮やかな昆虫の写真が建物の中や外に展示されていた。
そのひとつはウスバカゲロウだったかな。それを腹側から。
壊れそうなぐらい繊細で美しい。自然界の怖さ、凄さ、というものを思う。
 
中は飼育ケースに入った蛇や蛙、蝶の標本がたくさん。
これは子供たちが好きだろうな。
「日本一の昆虫屋」と称された志賀夘助が松之山出身でその生涯の紹介や
一つの部屋いっぱいに並べられた世界の蝶の標本。
企画展も今は蝶をフィーチャーしていた。
とにかく昆虫や動物たちの好きなスタッフが多いのだろうな。
トイレの手洗いにまで昆虫のオブジェが置いてあった。
施設にはいろいろと飽きさせない工夫があって
妻はスルメを餌にザリガニ釣りをしてみたり、ハンモックに寝そべったりしてみた。
 
アート作品としては湧き水の水滴を利用した、水琴窟のような楽器があった。
それが地下にあって、取り囲むように四角形のらせん階段が展望台まで続く。
実に160段。真っ暗な中を上っていく。
ガラス張りの展望台からは周りの森が見渡せた。
それはいいとして、ガラス張りなので真夏のように暑かった。
エアコンはあったけど10月に入ったからなのか電源が切られていた。
らせん階段を下っていく。下の階に入ったらひんやりした。
 
外に出て裏に回るとこの地域では山小屋と呼ばれる
円錐型で茅葺の、間に合わせのようでしっかりつくられたもの。
茅で作ったエスキモーのイグルーというか。
家と田畑の間につくって農作業の合間に利用した、というようなことが書かれていた。
 
裏の林を進んでいくと
前の日に『最後の教室』で度肝を抜かれたクリスチャン・ボルタンスキーの作品『森の精』があった。
木々の間に人の顔などを写した写真を極度に拡大してプリントした布が渡してある。
それが木漏れ日の中、風に揺れる。
その揺れているものは何なのか。写真の中の顔なのか、布なのか、僕の心なのか。
眺め続けていると全てがひとつに溶け込んだ風景、その光の粒子へと集約されていく。
ボルタンスキーはやはりすごいな……
発想が大きすぎる。それが思いもよらない斜めの角度から届く。
 
キョロロの施設の背後には自然散策用の広大な森が広がっていて、
美人林もその一部なのか。美人林の一部がキョロロなのか。
前回9月に来た時からここは気になっていた。
日本最大ブナ林、日本一美しいブナ林とのこと。
密集せず、ほどよい感覚でブナが植えられている。
濃すぎず、目にも優しい爽やかな緑。
足元にはふわふわの腐葉土、降り注ぐ木漏れ日。
こんな気持ちの良い場所があったとは。
入り口から入ってすぐ、「美人林」と彫られた石柱がある。
ここで50代半ばぐらいの方たちが10人ほど集まって記念撮影している。
通りがかった僕が代わりに撮ることになった。
こちらが「ハイチーズ」というと、2枚目で向こうは「こしひかりー」と。
僕ら夫婦の写真も撮ってくれる。「こしひかりー」と言う。
 
木立の間を歩いていく。
年中日の当たらないのだろう、苔がびっしり生えた斜面がある。
倒木に様々なキノコが生えている。
先を歩いていた老夫婦が引き返してきて、「この先道はないよ」
彼らは斜面を登って稜線に出る。
僕らはそのまま来た道を辿った。
彼らが下りてきたところでまた一緒になる。
妻がどうでしたと聞くと道はなく、歩くのも大変だったと。
 
ブナ林の真ん中には溜池があって、澄んだ水面に逆さになったブナの木々が映る。
秋も深まり始めて、夕暮れの光も入り始めて、黄金色に染まる。
美しい光景だった。
大地の芸術祭』がない年もここはまた来てみたい。初夏の頃に来てみたい。