先週買ったCD #148:2023/08/14-2023/08/20

2023/08/14: ヤフオク
Misty In Roots 「The John Peel Sssions」 \9800
 
2023/08/16: www.hmv.co.jp
Lana Del Rey 「Did You Kmow That There's A Tunnel Under Ocean Blvd」 (/2750)
The Sister Of Mercy 「First And Last And Always」 (\1650)
HMVのポイントで
 
2023/08/19: BOOKOFF 荻窪駅北口店
Johnny Winter 「Second Winter」 \2650
 
2023/08/19: DiskUnion 吉祥寺店
Vow Wow 「Mountain Top」 \1800
Primal Scream 「Evie Heat Limited 2CD Edition」 \2250
Elis Regina 「13th Motreux Jazz Festival」 \1200
PJ Harvey 「Stories From The City, Strories From The Sea - Demos」 \780
Joe Gibbs & The Professionals 「State Of Emergency」 \780
 
2023/08/19: www.hmv.co.jp
Khruangbin & Men I Trust 「Live At RBC Echo Beach」 \2490
 
2023/08/20: @ワンダーJG
Linda Lewis 「On The Stage In Japan」 \770
(V.A.) 「Precious Stone : In The Studio With Sly Stone 1963-1965」 \550
(V.A.) 「Eccentric Soul: The Bandit Label」 \990
 
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Lana Del Rey 「Did You Kmow That There's A Tunnel Under Ocean Blvd」
 
ラナ・デル・レイのデビューシングル ”Video Games”(2011)は衝撃的な曲だった。
新しい世界の扉を開けた1曲だった。
沈み込み漂うようなアンニュイとメランコリーが時代の空気感を捉えていた。
このおかしな世界で期待するものは何もない。
それはいつの時代も言われてきたことだけど、その時代の文法や様式を伴う必要があった。
2010年代はこのマナーなんだな、と聞いてすぐピンときた。
彼女自身が製作・編集したというツギハギだらけの、
素人感丸出しなのにセンスの良さで全てを一蹴するようなビデオクリップにもそれがあった。
世界や時代を語るのは新しい何かを生む行為ではなく、
ただ単に枠に当てはめて切り取るだけの行為なのだという諦め。あるいは潔さ。
この人、相当頭いんだろうな、と思った。
 
来日公演があるというのでどうしても見てみたくなり、ツアーのチケットを申し込むも抽選に当たらず。
そのことを twitter でボヤいたら
見ず知らずの高校生の女の子からチケット余ってるのでよければ、とコメントが。
部活の仲間たちとチームを組んでチケット獲得作戦を展開したらしい。
今思うとお互い疑わず、DMで簡単なやりとりで受け渡しして終わり。
当選メールを譲ってもらっただけかな。
僕もお礼を支払ったりはしなかった。
しばらくの間、その子の twitter を眺めていた。
今の子はこういうことを考えて、こういうことを言ったり言わなかったりするんだな、ということを知った。
大学に合格して、というところまでは覚えている。
その後 twitter から僕も離れた。
昨年、何年かぶりに本格的に twitter を再開するももちろんその子はいない。
10年ぐらい経って、今はどこかの企業で働いているのだろう。
 
その来日公演はキャンセルとなった。
急に脚光を浴びて忙しくなってスケジュールを立て直したいという理由だった。
ネットでは、歌が下手だから怖気づいたといった噂が流れていた。
実際の歌唱力はよくわからない。
スタジオワークで人工的に生み出されたもののように思えなくもない。
しかしそこまでしなきゃいけない理屈もわからない。
結局今に至るまで来日公演はしてないんじゃないかな。
 
デビューアルバム「Born To Die」(2012)を首を長くして待ったが、
結局 ”Video Games” を超える曲はなかった。
今聞くとアンニュイな声の曲と、ごく普通のギャルっぽい部分が同居していて完成度が低い。
プロダクションしきれていないというか。良くも悪くも初々しい。
「Ultraviolence」(2014)
「Honeymoon」(2015)
「Lust For Life」(2017)
とその後もコンスタントにアルバムを発表。全米1位か2位のどちらかとなる。
僕も都度買ってきたが、聞くのは一度か二度。
彼女の声の儚さがそのまま頼りなさにもなっていて。今一つだった。
 
起死回生の一枚となったのが5作目の
「Norman Fucking Rockwell!」(2019)
タイトルからして振り切っている。アメリカ人がそんなことを言っていいのか。
多くのものを敵に回さないか。覚悟がうかがえた。
しかしその内容はパンクなものではなく、180°違うもの。
彼女なりの幽玄な音が完成した。
誰も知らない森の奥、木漏れ日の中にひっそり広がる湖の中に
白いレースを羽織って裸足で入って死を選ぶというような。
文明生活の間で身近に置いていたいくつかの写真、詩編を共にしながら、というような。
諦念を抱えている人から、諦念そのものになったというような。
 
ものすごく危険な磁力を孕む音になった。
ラナ・デル・レイの巨大なオブセッションに引きずり込まれる。
彼女の生きるアメリカという虚構の大きさが具体的な音のイメージとして聞こえてくる。
 
プロデューサーのジャック・アントノフと出会ったのも大きいのか。
(彼のいたバンド、Fun.の”Some Nights” は名曲ですね )
彼はテイラー・スウィフトも手掛けているんですよね。
女性ミュージシャンの中にあるもの、奥底に潜むものを引き出すのがうまいんだろうなあ。
そう思うと今のアメリカでテイラー・スウィフトがコインの表で、ラナ・デル・レイが裏のように思える。
 
今年出た新作「Did You Kmow That There's A Tunnel Under Ocedan Blvd」で
再びジャック・アントノフがプロデュース。
「Norman Fucking Rockwell!」で完成した様式を推し進めるだけでよく、何の迷いもない。
堂々と異質な輝きを放っている。
アメリカの闇とその先に見える虚構の光。
全ての嘘とその先にある消えゆく真実。
ずたずたに引き裂いて組み立て直したこの世界の偽りの歴史。
記憶は噓をつく。感情は嘘をつく。真実は、歴史は、情報は、嘘をつく。
あなたにも、私にも。
そのことを歌っているように思う。
一見、穏やかな、母性や慈しみを感じさせる曲であっても、油断してはならない。
 
今年を代表する一枚になると思う。
ファザー・ジョン・ミスティやジャック・アントノフのバンド、Bleachersが参加している。
余談ながら、なぜか ”Kintsugi” というタイトルの曲がある。
”Paris, Texas” という曲もある。
彼女の曲のタイトルは思わせぶりなものが多いんですよね。