『ナタリー』

縁あってフランスの小説『ナタリー』に興味を持つ。
ダヴィド・フェンキノスは amazon の著者略歴を参照すると
ソルボンヌ大学で文学を専攻。ジャズ・ギターのインストラクターを経て、2002年にデビュー」
とあった。魅惑の経歴。
本をパラパラとめくってみると、淡々と出来事と会話を描きつつも
一見筋書きとは無関係な、
主人公ナタリーの住む世界に存在する事物の数え上げてリストにするとか
ラブレーっぽい挿入があちこちでなされている。
その世界について語っていくと同時にその語られる世界を作っていくというか。
既にそれがある前提で物語が進んでいくのではなくて。


映画化されていると知って TSUTAYA DISCAS に登録していたところ
本をちゃんと読む前に DVDが届いた。さっそく昨晩観てみた。
最愛の夫フランソワを若くして亡くしたナタリーは仕事に没頭することで忘れようとする。
社長に気に入られ誘われるも食事を一度しただけであとは断ってしまう。
数年が経過したある日、ナタリーはふと心の中の空白に落ち込んだ。
そこにたまたま現れたのが同じプロジェクトの同僚であるスウェーデン人のマルキュス。
さえない中年で恐らく、それまで女性と交際したことがない。
心あらずのままなぜかナタリーの方からキスをする。ナタリーはそのことを覚えていない。
マルキュスは本気にする。なのに正気に返ったナタリーは以後、まともに取り合おうとしない。
マルキュスがナタリーに不器用にも迫り続けるうちに
いつのまにかナタリーも心が傾いていく。


アメリ』のオドレイ・トトゥが主演。
ダヴィド・フェンキノス自身が監督している。
これがよくできていて、下手に職業監督が撮るよりよっぽどいいできだった。
描かれている世界観やテンポがしっくり来る。原作者だから当たり前か。
誰か他に、小説家にして自身の作品の映画化も得意という人はいただろうか? と考える。
誰か一人そういう喉まで出かかっていて思い出せない。確かフランスで。
村上龍は『ラッフルズホテル』や『トパーズ』を自身で映画化しているけど、
成功しているとは言いがたい。小説のほうが断然いい。
三島由紀夫も監督作品を残していたように思う。
ポール・オースターも『Smoke』の姉妹作『Blue in the Face』で
ウェイン・ワンと共に共同監督に名を連ねていた。でもあれもお遊びに近い。


BE-BOP-HIGHSCHOOL』の作者きうちかずひろが自分で映画化していて、
これが評判が高いとどこかで読んだことがある。
その後何本かVシネマを監督していた。
ヴィジュアルでストーリーを語っている漫画家の方が映画を取りやすいのだろう。
パトリス・ル・コントや『ティコ・ムーン』のエンキ・ビラル
元々バンド・デシネの漫画家だった。
平野勝之も10代の頃は漫画を書いていた。
こういったことを取り留めもなく思い出す。


『ナタリー』に話を戻す。最初の方で一つ印象的なシーンがあった。
最愛の人フランソワを亡くしたナタリーがソファーに置かれていた本を取ると
彼が読んでいたページに栞が挟まっていた。
その本の中に「フランソワ以前」「フランソワ以後」が生まれることになる。
それはナタリーの人生にとってもそうなのだ、ということ。
こういう何気ない、繊細なエピソードが時々出てくる。うまいなあと感心させられた。