こんなことがあった。
先日、母から電話がかかってきて青森の新米を送ると。
合わせて何か送ってほしいものがあれば送ると言うのだが、
いや、米だけでいいよと。
正月もこの状況だと帰れないという話を前にしていて、
だったらあれこれ送っておきたいようだ。
ニシンを送るか、と母は言う。
ニシン? や、いいよと答えたが、
後日またかかってきたときに再度、ニシンを送らなくていいか、と。
じゃあ、そこまで言うなら送ってよ、ということになった。
昨日、段ボール箱が届いた。
開けてみると「青天の霹靂」の小さいパッケージが二袋。
その脇にサバの缶詰がいくつか添えられていた。
僕が好きでよく送ってもらう八戸で獲れたサバを味噌煮にした缶詰。
ニシンはなかった。
……あ、もしかして。
遂にその時が来たか。
年老いた母はニシンとサバの区別がつかなくなったんじゃないか。
ぞっとした。
届いたよ、と電話するのが怖くなった。
届いたよ、と何気なく言って、
一呼吸おいて、
受話器の向こうの母に向かって
ニシンはなかったよ、と。
「ニシン? ああ、売り切れてただけ。
サバ? ああ、いつも送ってるから前もって言わなくてもいいかと。」
ただそれだけのこと、だった。
それだけのこと。
だけど、なんというか、その……