その女の子はいつも一人で遊んでいる。
ボロボロになった人形であるとか壊れた傘であるとか。
伏目がちな少女は声を発することがない。
公園の横の駐車場は閉鎖されていて
通りかかる大人たちも少女のことは見てみぬふりをしている。
公園には決して足を踏み入れようとしない。
同い年ぐらいの女の子も男の子もいるのに。
服はいつもきれいな上等なものを着ている。
道路を挟んで土手があって、その向こうには川が流れている。
時々土手に上がってじっと見つめている。
土手を下りて川縁まで下りていくことはない。


あるとき見知らぬ少年が駐車場に来る。
みすぼらしい格好をしている。歯並びも悪い。
よく喋るが、この辺りの言葉と少し違う。
少女は最初のうち無視していたが、
無言のうちに一緒に遊ぶようになる。
ふたりは大人たちには見えない何かを相手に遊んでいる。
日が暮れて土手の上に立って川を眺めた。
夕焼けを浴びて水面がキラキラと流れていく。
少年が少女の手を握った。
少女はそのままにした。


男の子は川べりに下りていく。
女の子は駐車場の脇から住宅地に入っていった。
背後には団地と高いところを走る電車。
少女は立ち止まって見上げる。
中には大勢の大人たちがいる。


次の日になって少女が駐車場で遊んでいるとまた少年が来る。
大人たちには見えない三人目の誰かと一緒になって遊ぶ。
珍しく大人たちが現れ、少女を呼び出し、
少年には聞こえないように小声で
あの子と遊んではいけないと強い調子で言う。
こっちに来て公園で皆と遊びなさい。
手首をつかんで連れて行こうとする。
少女は抵抗して泣き叫ぶ。
初めて言葉にならない声をあげる。


大人たちは少女を公園に連れて行って、
遊んでいた子どもたちにこの子も仲間に入れるように言う。
女の子はうつむいている。
大人たちがいなくなると子どもたちは少女に石を投げる。
口々に「ユウレイ、ユウレイ」と叫ぶ。
石がぶつかって服が汚れる。
少女は泣きながら駆け出して公園を出た。
駐車場に少年はいなくなっている。
二度と現れることはなかった。


大人になって少女は、幼い頃に育った地区には決して近づこうとしない。
(生まれた場所は別であって、様々な事情で両親から引き離された)
それがどこであろうと川の前に立つこともない。
どこか彼女の知らないところで川が流れている。
かつての少年は遠く離れたその深い川に身を投げて、自ら死のうとしていた。
たいしていいことのない人生だった。
彼女はふと、あの日の石を投げる子供たちの声を心の中に聞いた。
振り払い、いつも通り会社の机で仕事を続けた。
電車に乗ってアパートへと帰った。